台風災害と募金箱

城下駅まで復旧した別所線

城下駅まで復旧した別所線

別所温泉駅の「折り紙アート」

別所温泉駅の「折り紙アート」

 

台風19号は、長野県をはじめ、各地に甚大な被害をもたらしました。この場をお借りして、被害にあわれた皆様に心よりお見舞い申し上げます。

長野県で特に被害が大きかったのは、千曲川と千曲川に流れ込む数多くの支流の流域です。山間地が多い長野県ですので、山あいの支流や沢などでも、多くの被害が発生しました。千曲川の決壊は、過去に何度となく繰り返されていたとはいえ、未だに自然の力の前には人の力が及ばないことを思い知らされます。

ここ上田でも、大きな被害がありました。雨が少なく、ため池が多いことで有名な塩田平でも、尋常ではない雨が降りました。千曲川が一部越水し、堤防の損傷によって別所線の赤い鉄橋が落ちてしまったことは、ご存じのとおりです。このことは、とてもショッキングな出来事でした。鉄橋の近くに架かる上田橋では、たくさんの人が、茫然と鉄橋を見つめたり、カメラを向けていました。別所線は上田と別所温泉を結んでいますが、その途中には大学や短大もあり、上田への通勤、通学の足としても利用されていますので、その影響はとても大きいのです。

私が研修を行っている会社でも、何名かの方が今回の災害で被害にあわれました。千曲川の決壊現場の近くで被害にあわれた方もいらっしゃいました。災害があって数日後、会社には募金箱が用意されたとのことです。しかも、その募金箱を用意したのは、長年働いているパートさんで、誰に言われたのでもなく、自発的に用意されたのだそうです。募金箱には多くの募金が集まり、外国から働きに来ている方も、慎ましい生活費の中から募金をしてくれたそうです。このことは、私が研修でお邪魔した折にお聞きしたのですが、何か温かいものを感じました。こうして集まった募金は、被害にあわれた方への何よりの励ましであり、贈り物だと思います。

また、今回の災害でも、多くのボランティアの皆さんが活躍されています。ボランティアの皆さんの力は復興の原動力として、被災された方々をはじめ、多くの皆さんから感謝されています。善意の人の力や温かさを感じずにはおられません。災害は多くの悲しみと苦難をもたらしますが、一方で私たちがとかく忘れがちな善意の心や人の温かさを呼び覚ましてくれます。

別所線も、城下駅(上田駅の次の駅)から下之郷駅までが復旧し、城下駅から別所温泉駅までつながりました。また、本数も災害前の8割にまで回復しています。城下駅から上田駅までは代行バスですが、それでも以前に比べると随分便利になりました。赤い鉄橋の復旧にはまだ時間がかかりそうですが、各方面からの支援も集まり始めています。一日も早く復旧して、また上田駅の達郎アバターの出発チャイムを聞くことができることを願うばかりです。

*:「サマーウォーズ」主題歌「僕らの夏の夢」 作詞・作曲 山下達郎

決して折れない心

別所温泉北向観音

別所温泉北向観音

別所温泉北向観音

別所温泉北向観音

新しい年、2018年。初詣に別所温泉の北向き観音に行ってきました。以前お参りした時は、別所温泉駅のあたりからずっと人が並んでいたのですが、今回は、北向き観音の手前で少し並んだだけで、お参りすることができました。ちょっと寂しい気もしますが…今年一年、良い年にしたいものです。

新しい年を迎えるたびに、世の中が変わるスピードが速くなっているように感じます。ネットやスマホはもはや当たり前ですし、AI(人工知能)の進歩は、IT(情報技術)や自動車などと結びついて、急速に人と技術の距離を縮めています。AIとはいっても、まだまだ「AIもどき」が多いのも事実なのですが、人間の得意技である「学習する能力」を身に付けて、活用の場をさらに広げていくことでしょう。人とAIの距離が縮まるにつれて、様々な議論が巻き起こりました。どんな仕事がAIにとって代わられるのかなど、気の早い議論も週刊誌を賑わしました。AIの進歩は、改めて「人間とは」という問いかけを発しているようです。

年末に、海洋冒険家白石康次郎さんの講演を聞く機会がありました。白石康次郎さんといえば、世界一過酷な世界一周ヨットレース「ヴァンデ・グローブ」に、アジア人として初めて出場したことでも有名です。今回は、残念ながらレース途中でメインマストが折れてしまい、途中棄権となりましたが、4年後の再出場を目指しているとのことでした。講演会のテーマは「決して折れない心」。白石さんがヨットマンとして、どのように夢を実現したのか、その生き方について話されました。幾度もの失敗や挫折を乗り越え、何度も涙を流してきた白石さん。そんな逆境から逃げずに闘ったことで、今の白石さんがあるのでしょう。本当にいい顔をされていました。

白石さんが大学生と一緒に作った「マイナスをプラスに変える行動哲学」という本があります。現役の大学生と白石さんが、5人のトップアスリートとのインタビューを通じて、その行動を支える哲学に迫るというものです。トップアスリートといえば、天賦の才能を与えられた一握りのエリートと考えがちですが、彼らも生身の人間。怪我もすれば悩みもします。そんな逆境のなかで彼らを支え、逆境を克服できた思いや哲学、そんなトップアスリートの生の声には、私たちにも気づかされることがたくさんあります。

また、大学生の持つ漠然とした不安や本音なども、この本から伝わってきます。何でも手に入る様で、実は本当にやりたい事や目指すものが見つけにくい今の世の中。失敗を恐れずにチャレンジしよう、ときれい事を言われても、いざ失敗すれば、打って変わって厳しい叱責。これでは、失敗を恐れて、チャレンジすることに二の足を踏む若者が増えるばかりです。白石さんは、そんな失敗に寛容でない社会を作ったのは今の大人達、とかなり手厳しい。

終身雇用が崩れて久しい今日、先日の新聞報道によれば、「自己啓発」市場は9,000億円に拡大し、平成元年に比較して3倍に伸びているそうです。大企業の経営破綻やリストラなど、将来の不安がそんな動きを後押ししているのでしょう。もはや、自分の成長は自分で責任を持つ時代なのかもしれません。

人は誰でもはじめから完全ではありません。失敗や苦難を経験して、それらを乗り越えることで成長していくのです。社会に出たばかりの若者たちには失敗する権利があるのです。若者たちにチャレンジすることをためらわせてはいけません。「失敗を人のせいにしない」、「自分に配られたカードで勝負するしかない」という白石さんの言葉は、人間だけに許された、「折れない心」を育てる上で欠かせない大切なことを示していると思うのです。

「もし、過ちを犯す自由がないのならば、自由を持つ価値はない。」

-マハトマ・ガンジー-

以下の文献を参考にさせていただきました。

「マイナスをプラスに変える行動哲学」 白石康次郎著 (生産性出版) 2013

 

視野を広げる

上田城の紅葉

上田城の紅葉

真田神社

真田神社

 

先日、会社時代の友人が信州上田を訪ねてくれました。大河ドラマ「真田丸」の影響もあってか、上田城跡をぜひ訪ねたいとのことで、上田城下から塩田平、別所温泉などを案内しました。ちょうど紅葉も見頃で、信州上田をとても気に入ってくれたようでした。私には見慣れた景色でも、都会暮らしの友人には新鮮に映ったのでしょう。盛んにシャッターを切っていました。真田丸大河ドラマ館の入館者も100万人に迫る勢いとのことです。全国から訪れた多くの皆様に、信州上田の良いところを感じて頂けたらと思っています。

私たちは、誰でも自分の世界の中で生きているものです。意識しているかどうかは別として、様々な感情を抱いたりものごとを考えたりする時にも、その人が持っている様々なルールや価値観などが反映されているのでしょう。そもそも、ものごとを見たり感じたりできる範囲、すなわち「視野」も人によってまちまちです。今日の様に複雑な時代では、同じものごとを見ても、人によって真逆の結論にたどりつくことも往々にしてあります。ものごとを多面的に見て、より生産的で納得できる結論を得るためにも、広い「視野」を持つことがますます大切になっていると思います。そこで、今回は「視野」を広げることについてお話してみたいと思います。

私たちは、自分に見えていることが全てだと思いがちです。いくらものごとの全体を見ているつもりでも、実は自分の「視野」からものを見ているに過ぎないのです。もちろん、私も含めて・・・。ですから、一部を見て全体と見誤ったり、自分の間違った思い込みを助長してしまうのでしょう。また、自分に見えているものが他の人には見えていないことや、その逆に自分には見えていないものがまわりの人には良く見えていることもあり、そのことが、様々な行き違いを生じさせる原因になっているのかもしれません。

自分に見えていることが全てだと思っていることが、「視野」を広げることを妨げてしまっているのかもしれません。自分に見えているもの、感じているものがものごとの全てではないことを知ることが、「視野」を広げるための第一歩なのでしょう。今見えている世界の先には、まだ自分が知らない世界が広がっているのです。そして、その中に自分が探しているものや求めているものがあるのかもしれません。もちろん、「視野」を広げることは容易いことではありませんし、時間も必要です。長い間住み慣れた世界を変えることには戸惑いもあるでしょう。急がず、たゆまず歩んでいくことが大切なのです。

私は、人の成長は、その人の「視野」が広がることだと思っています。経験を積むことで見えてくることもたくさんあるでしょうし、学ぶことで自分が知らないことに気づくこともあるでしょう。自分の知らないこと、足りていないことに気づくことは「視野」が広がっていることを示しているのです。自分の知らない世界に踏み込んでみる、そんな日々の心がけが「視野」を広げるきっかけになるのかもしれません。

「視野」が広がることは、自分の世界が広がることなのです。今まで見えていなかったものが見えるようになり、そのことが新しいチャレンジにもつながるものです。このことは、ビジネスでは勿論ですが、なによりも人が幸せに生きていく上で大切なことなのかもしれません。成長を続ける人は、自分の「視野」を広げるすべを経験的に知っているのでしょう。そして、そのための努力を日々続けているのかもしれません。

自分を変える力

あじさい小道

あじさい小道

塩田城址

塩田城址

 

信州上田では、アジサイが見頃です。前山寺から塩田城祉を経て塩野神社へと続く「あじさい小道」では、約3万株のガクアジサイが咲き誇っています。塩田城は、鎌倉時代の塩田北条氏に始まり、戦国時代には、上田原の戦いで武田信玄を苦しめた村上義清の居城ともなりました。素朴な風情に癒される、そんな小道です。

長い社会人生活や人生を送る中で、上司や同僚、そして家族から、自分の足りないところを気づかされることがあります。なかには、厳しい指摘もあるでしょうし、やんわりとした言葉の中に、思いが詰まっていることもあったりもします。皆さんは、そうした時にどのように反応していますか?

人から自分の足りない所を指摘されて、気持ちの良い人はいないでしょう。自信を無くして落ち込んでしまうこともあるでしょうし、「そんなことはない」と否定したり、さらには相手との人間関係が悪くなってしまうこともあるかもしれません。自分を否定されたと思って、自分を取り繕い、守ろうとしてしまうのです。相手にはそんな気持ちは無くて、良かれと思って言ってくれたのかもしれないのです。

一方で、指摘されたことを生かして、自分を高めていける人もいます。自分の足りない所を補い、一歩ずつ成長しているのです。小さな一歩でも、積み重ねて行けば、長い間には大きな違いを生むことになるのかもしれません。

このような違いはどこからくるのでしょうか。よく言われることですが、自分の足りないところに気づくことは、自分の伸びしろを知ることでもあるのです。頭では分かっていても、実際に耳の痛い話をされると、素直には受け入れられないものです。でも、そんな話こそ、「自分づくり」のための大切なメッセージや自分を変えるヒントが隠れているのかもしれません。ですから、耳の痛い話にも心のシャッターを下ろさないで、素直に耳を傾けて、相手の真意を理解しようとすることが大切なのです。

自分を変えたいと思っても、今の自分は長い年月をかけて培われてきたものですから、そう簡単には変えられないかもしれません。でも、あなたが自分の本当の姿に気づき、心から変わりたい、こうなりたい、と思うことができれば、きっと変われるのではないでしょうか。また、「なりたい自分」について、具体的な目標を持つことも大切なことです。最初からあまり欲張らないで、まずは手の届きそうな目標を立ててみることが良いかもしれません。そして、その目標に向かって一歩を踏み出してみるのです。そして、その一歩を習慣になるまでやり続けることです。例えどんなに小さなことでも、自分の努力で自分を変えることができれば、それは一生の宝物になることでしょう。人生は、「自分づくり」の旅なのです。生涯をかけて、一歩ずつ自分にあったペースで自分を磨いていけば、いつかは「なりたい自分」を手に入れることができるのです。

 

続 問題解決の心

上田城千本桜まつり

上田城千本桜まつり

上田城千本桜まつり

上田城千本桜まつり

 

4月6日~17日の間、「上田城千本桜まつり」が開催されました。今年は、大河ドラマ「真田丸」のおかげもあって、県外からもたくさんの方が訪れ、満開の桜を楽しんでいました。

 

前回まで、問題を解決するための知恵の出し所や、その際に陥り易い落とし穴などについて、お話をしてきました。今回は、そのひと区切りとして、問題解決力を高めるための心がけについてお話ししてみたいと思います。

問題解決というと、専門家や一部の人が行うものと思われがちですが、程度の差はあるものの、実は誰もが避けて通れないものなのかもしれません。社会の変化や価値観の多様化などによって、ビジネスの現場や私たちの身の回りで起きる問題が複雑で難解になっている今日では、なおのことです。もちろん、専門家の助けが無ければ解決できない問題があることは確かですが、その場合でも、問題の当事者が問題自体を正しく見定めることができれば、専門家の支援などもずいぶん受けやすくなりますし、問題もより良い形で解決することができると思うのです。

問題を解決することは決して簡単なことではありませんが、前回までお話ししたステップをひとつひとつ確実に行っていけば、問題の解決策に近づくこと、見出すことができるものです。例えどんなに困難に思える問題でも、あきらめずに考え抜くことで、解決の糸口が見つかるはずです。

ところが、人は自分に見えている世界の中で問題を解決しようとするものです。ですから、いくら考えても、問題の真因や解決策が自分の視野の中に入ってこないと、なかなか問題を解決することはできません。問題を解決するためには、素直にそして広い視野で問題と向き合い、新しい視点や発見を受入れることが求められます。そのためには、従来の自分の考えや思い込みを疑ってみることも必要なのかもしれません。日頃、自分の視野について意識することはあまりないものですが、何か問題が起こって、いざ解決しようとすると、自分の視野や自分を束縛している固定観念などに気づかされるものです。逆に言えば、問題解決に取り組むことで、自分に見えている世界を知り、自分の視野の限界に気づくことができるのです。

また、実際に問題を解決する場面では、緊張やストレスが伴うものです。そのような状況では、普段よりもさらに視野が狭くなってしまい、いつもは見えるものも見えなくなったり、冷静な判断が行えなくなってしまいます。自動車を運転している時に、スピードを増すと視野が狭くなりますが、それと同じことが、問題解決でも起きるのです。日頃から、より広い視野でものごとを考え、どんな時にも平常心でいられることも、問題解決力を向上させるためには大切なのです。

問題解決では、ものごとを論理的に考える力はもちろん必要なのですが、それだけで十分とは言えません。その人が身に付けている視野の広さや、新しい発見や気づきを受入れる心の柔軟さがものをいうのです。また、あきらめずに考え抜くこと、前向きで建設的な心を失わないことも大切です。そして、これらのひとつひとつが、私たちの成長や人間形成にも繋がっているのです。私が問題を解決する力をヒューマンスキルのひとつとして挙げている理由も、ここにあるのです。

 

※ 問題解決において視野の広さが大切なことは、ワインバーグ先生から教わりました。おかげで、何度も窮地から救われたものです。

 

問題の解決策を見つける

別所温泉

別所温泉

別所温泉 石湯

別所温泉 石湯

 

信州上田駅から上田電鉄別所線で30分程のところに別所温泉があります。別所温泉の外湯には、木曽義仲ゆかりの「大湯」、円仁慈覚大師が入ったと伝わる「大師湯」、そして「石湯」があります。「石湯」は、池波正太郎氏の「真田太平記」に、真田幸村(信繁)と忍びの者お江が出会う隠し湯として描かれています。以前は、文字通り岩の割れ目からお湯が沸き出ていたそうです。

 

前回は、問題の真因を見つけることについてお話ししました。問題の根本的な原因、すなわち真因を見つけ出すことは、問題を解決する上で大切な知恵の出し所です。問題毎にその真因は様々ですが、愚直に「なぜ」を繰り返して問題の原因を深堀することで、真因にたどり着くことができるのです。そこで今回は、問題の真因を解決策に結びつけるポイントについてお話ししてみたいと思います。

問題の真因を見つけ出すことができれば、多くの問題は解決することができます。問題を解決することは問題の真因を取り除くことですから、問題の真因が分かれば、問題の解決策や再発防止策は容易に見つけられると思います。見つかった解決策は、実際に行う前に、次の様な確認を行ってみると良いでしょう。

まず、この解決策によって、当初の問題は根本的に解決できるのか確認します。もし、問題が解決できそうになければ、真因が違っているのか、あるいはまだ別の真因が隠れているのかもしれません。原因分析に戻って再検討してみましょう。

次に、解決策は実際に行うことが可能か、その実現可能性について確認してみましょう。どんなに理想的な解決策であっても、実際に行うことが難しければ、絵に描いた餅になりかねません。あくまでも、現実的な解決策を見つけることが大切なのです。もちろん、問題を解決するのですから、多少の困難やチャレンジは良しとしましょう。

これらの確認を行うことで、解決策の誤りや見落としに気づくことができますし、より効果的な解決策を見つけることができるのです。

 

ビジネスの現場や私たちのまわりで起きる問題には、もっと複雑なものもあります。解決策を行うことで新しい問題を引き起こしてしまうことや、別の問題の解決を邪魔してしまうこともあります。また、もともと潜んでいた利害対立に火をつけてしまうかもしれません。そのために、問題解決の努力が思いがけない反発に遭ってしまうこともあります。苦労してたどり着いた解決策であればある程、その解決策に固執してしまい、かえって問題をこじらせることにもなりかねません。

では、この様なことを防ぐためにはどうしたら良いのでしょうか。こうした事態は、解決策の持つ副作用を想定していなかったか、想定していても、その副作用を過小評価していたことに起因しているのかもしれません。ですから、解決策を見つける際に、その副作用について検証しておくことはとても大切なことなのです。もし副作用があると分かれば、もちろん、副作用が無いか少ない解決策を探すことになるのですが、どうしても副作用が避けられないこともあるでしょう。そのような場合には、副作用を打ち消すための方策や、反対意見を説得するための方法について検討することが必要になるかもしれません。

また、あらかじめ問題を把握する際に、その問題に潜在的な利害対立が存在していないか吟味しておくことも大切です。利害が絡んだ問題を解決することには、大変な困難が伴うものです。特に問題の当事者が聞く耳を持たず自分の主張を言い張るだけとなると、知恵やアイディアではとても解決できません。然るべき専門家に相談する必要があるのかもしれません。

私は、どんな問題であっても、それらを解決することは、最後は人の問題に帰結すると思っています。例えそれが技術的な問題でもそうですし、専門家の助けが必要な場合でも同じことが言えると思います。どんな解決策でも、その影響を受ける人達に大なり小なり変化を求めるものです。問題に関係する人達が、解決策がもたらす新しい価値観や環境などに順応できて始めて、問題は解決できると思うのです。

一方で、人は変化を望まないものです。頭では分かっていても、無意識に現状を維持しようとしてしまいます。せっかくの解決策を絵に描いた餅にしないためにも、人の心に変化の種を撒くことも、問題を解決するためのまたひとつの知恵の出し所なのかもしれません。

 

※円仁慈覚(えんにんじかく)大師

比叡山延暦寺の第三代座主。最後の遣唐使として唐に渡る。北向き観音堂建立のため、当地を来訪された。

 

どんな問題にも必ず原因がある

真田丸大河ドラマ館

真田丸大河ドラマ館

上田城の石垣

上田城の石垣

 

3月に入り、信州上田も一気に春らしくなってきました。上田城に隣接して、この1月にオープンした真田丸大河ドラマ館の来場者も、既に6万人を超えたそうです。上田城の南側、今は駐車場や遊歩道になっていますが、真田氏が活躍した頃は、ここを千曲川が流れていたとのこと。石垣を見上げると、当時の上田城の堅牢さが偲ばれます。

前回は、問題解決では、まず発生している事象から、問題の全体像を正しく理解することが大切なことをお話ししました。そこで今回は、問題の原因を究明することについてお話ししてみたいと思います。

問題について理解を深めるためには、二つのアプローチがあります。一つは、前回お話しした発生した事象から問題を理解すること、もう一つが、今回取り上げる問題の原因を理解することです。これらのアプローチを使い分けることで、問題の本質的な原因(問題の真因)に迫ることができるのです。ところが、実際の問題解決においては、これらのアプローチを混同してしまうことが多いものです。それでは問題の本質に迫ることは難しくなってしまいます。また、問題の発生事象は目に見えますが、原因となると目で見ることは難しいものです。ですから、問題の原因を見つけるためには、ものごとを論理的に考え、想像する力が求められるのです。

問題の原因を見つける手法としては、「なぜなぜ分析」が有名です。もともとは、トヨタで「5なぜ」として始まったもので、5回「なぜ」を繰り返して原因を深堀し、問題の真因を見つけようというものです。今では、回数にはとらわれないで、真因にたどり着くまで原因の深堀を行います。原因らしいものを見つけると、それらを原因と勘違いしてしまい、結果的に、根本的な原因が見つからないことがあります。そんな「問題解決のワナ」がいたるところにあるのです。そこで、さらに「なぜ」を繰り返して原因の深堀を行い、問題の真因を見つけ出そうというのです。

「なぜなぜ分析」については、小倉 仁志氏が書かれた「なぜなぜ分析10則」に詳しく解説されていますので、興味がおありの方には一読されることをお勧めします。

ある所までは「なぜなぜ分析」で原因を深堀できても、なかなか真因までたどり着けないことがあります。そんなときは、「仮説検証」を用いてみると良いでしょう。真因と思われるものについて、「原因はAである」と仮説を立て、その仮説にもとづいて解決策を作るのです。そして、解決策の効果を確認することで、その仮説が正しいか検証を行います。もちろん仮説ですから、違っているかもしれません。その場合には、また新しい仮説を立てるのです。こうした仮説と検証のプロセスを繰り返すことで、問題の真因を見つけるのです。また、「なぜなぜ分析」を行うまでもなく、原因が想定できることもあるでしょう。そんな時には、最初から「仮説検証」を用いても良いと思います。

この様に、問題の真因を見つけるためには、試行錯誤を行うことが必要になるものです。実際の問題解決は、山あり谷ありで、始めから正解がある問題を解くような訳にはいきません。うまい試行錯誤のやり方を身に付ける、このことも、問題解決力を高めるためには大切なことかもしれません。問題には必ず真因があります。どんなに小さな問題でも、大きな問題でもそうです。実際に問題解決に取り組み経験を重ねることで、効果的な試行錯誤のやり方や思慮深さ、そしてどちらに向かえば本質的な原因に迫れるのか、といった方向感覚を身に付けることができると思うのです。そのことが、どんなに困難な問題に立ち向かう時にも、「考えるだけ正解に近づく」という自信を与えてくれるのではないでしょうか。

 

以下の文献を参考にさせていただきました。

「なぜなぜ分析10則-真の論理力を鍛える-」

小倉 仁志 著   (日科技連) 2009

 

なぜ問題を見誤るのか?

雪景色の塩田平

雪景色の塩田平

雪景色と別所線

雪景色と別所線

 

先日の全国的な寒波で、上田も一面の雪景色です。暖冬だっただけに、真冬の寒さが身に沁みます。雪景色の中を走る別所線。元気をもらえるようです。

私たちの身のまわりで起こる様々な問題。多くの方が、そうした問題を解決できたら、と思っていらっしゃるのではないでしょうか。そこで、今回から問題解決力を高めるヒントについてお話ししてみたいと思います。初回は、問題を見誤らないためのヒントです。

問題を解決することは決して容易なことではありません。以前、「気づきのヒント」でもお話ししましたが、問題解決は最初が肝心なのです。まず、問題から目を背けないで、問題の正体を見極ることが大切です。問題の正体を理解することで、問題は解決への道を進み始めるのです。ところが、その第一歩で躓いて、解決すべき問題を見誤ってしまうことがあります。それでは、どんなに頑張っても問題を解決することはできません。問題を正しく理解することは、一見出来ているようで、実はあまり出来ていないものです。では、どうして問題を見誤ってしまうのでしょうか。

まず第一に、解決すべき問題をよく理解しようとしないで、解決を急いでしまうことがあげられます。問題の原因を探そうとするのはまだ良い方で、往々にして犯人探しに躍起になったり、問題の解決策だけを求めてしまうのです。これでは問題を理解することができないばかりか、問題を見失うことにもなりかねません。職場の上長やお客様から問題解決を急かされていることもあるのでしょうが、そうでなくても、私たちは、問題を解決しようとするとつい急ぎ足になってしまうものです。無意識に問題を避けようとしているのかもしれません。そんなこともあって、問題自体を明らかにすることを疎かにしてしまうのです。

二番目は、予断や思い込みなどのによって、問題をすり替えてしまうことです。どうせ・・・に決まってる、多分・・・だろう、といった具合です。誰にでも多かれ少なかれ先入観や思い込みがあるものです。そんな普段あまり意識していない感情が、問題を正しく理解することを邪魔するのです。そうした感情に流されないで、あくまでも客観的に問題を捉えることが大切です。また、日頃から広い視野を持つことやものごとに囚われない心を育てることも、問題を素直に見ることを促してくれます。

第三に、問題の一部を見て、それを問題の全てと思い込んでしまうことがあげられます。私は、これを「氷山の一角効果」と呼んでいます。氷山は、海上に出ているのは全体の10%で、大半は海の中にあるのだそうです。問題も同様で、目に見えているのはほんの一部だと思った方が良いでしょう。また、実際の場面では、問題についての情報は限られたものしか手に入らないものです。ですから、限られた情報から問題の全体像に迫ることが求められるのです。そのため、あなたのコミュニケーション力や想像力の助けが必要になります。問題は多面性を持っていますから、見る人によって捉え方が違ってきます。ですから、問題の全体像を理解することがとても大切になるです。問題解決とコミュニケーションや想像力などの考える力については、また改めてお話ししたいと思います。

問題自体をよく見ていくと、いくつかの問題が絡み合っていることがあります。その様な場合には、ひとつひとつの問題を解きほぐすことも必要になります。問題はひとつとは限らないのです。また、問題の原因を探しているうちに、実は問題自体が十分理解でていないことに気がつくこともあります。そんな時は、迷わず問題自体を正しく理解することに立ち返ることをお勧めします。原因の究明はその後で良いのです。

問題の正体を理解しようとする過程には、様々な気づきや発見があるものです。これらの気づきや発見も、私たちに問題を解決するための糸口を教えているのです。

次回は、問題の原因を見つけるヒントについてお話ししたいと思います。

 

※気づきのヒント   「問題解決の心」 2015/11/24

 

新しい自分との出会い

浅間山

浅間山(小諸からの眺め)

真田幸村像

真田幸村像(上田駅前)

 

新しい年、2016年。皆様にとって実り多い一年でありますことを、お祈り申し上げます。

いよいよ大河ドラマ「真田丸」が始まります。信州上田も「真田丸」一色です。地方の一豪族であった真田親子が、激動する戦国時代をどのように生き抜いたのか、この一年、楽しみに見たいと思っています。

新年を迎えて、今年の目標を立てた方も多いことと思います。一年の初めに目標を立てることは素晴らしいことです。もちろん、目標を立てたからといって、ものごとが目標どおりにいくわけではありません。目標の実現に向けて努力すること、知恵を出すことが大切なのはいうまでもないでしょう。目標を達成するまでのプロセスが大切なのです。そして、目標に向かって頑張った経験は間違いなくあなたにとっての宝物なのです。もし仮に目標が達成できなかったとしても、頑張った経験はあなたの宝物であることに変わりはありません。頑張ったからこそ、くやしいと思う気持ちも生まれてくるのです。頑張った経験やくやしさは、いつかきっと皆さんを励まし、助けてくれるはずです。

もしあなたが何をやってもうまく行かず、こんなはずじゃなかった、と思いながら日々を過ごしているのなら、思い切ってこの一年を「下積みの一年」と考えてみたらどうでしょう。この一年を「下積みの一年」、「自分を見つめ直す一年」と決めるのです。今の時代、「下積み」という言葉はあまり聞かれなくなりましたが、そんなこともあってか、自分を見つめ直す機会が減っているのかもしれません。人の一生には良い時もあれば、そうでない時もあるものです。あきらめの中で今のままの生活を続けていくのではなく、もう一度自分にチャンスを与えてみたらどうでしょう。前に進むことだけが目標ではありません。一度立ち止まってじっくり自分と向き合ってみる、そんな時間も人生には必要なのかもしれません。

誰でも、自分のことはよく分かっているようで、実はあまり分かっていないものです。自分と向き合うことは、時としてかなり勇気のいることですが、素直にありのままの自分を知ろうとすることで、今まで知らなかった自分に出会えるかもしれません。その上で自分はどうなりたいのか、どう変わりたいのか、目標を立ててみたらどうでしょう。自分が変われば、まわりの景色も今までとは違って見えてくるでしょうし、そのことが、さらに新しい一歩を踏み出すきっかけになるのかもしれません。

私は、目標を達成することはもちろん大切ですが、それ以上に目標を達成できる自分になること、自分を変えることの方が、長い人生において大きな意味を持っていると思っています。たとえどんなに小さな変化でも、自分が変わったと思えることは、あなたに本当の自信を与え、心を強くしてくれると思うのです。

私も60才を過ぎて、あんなに長いと思っていた人生が、思っていたほど長くはないことを実感しています。この一年、一日一日を大切に、新しい自分との出会いの旅を続けていきたいと思っています。

問題解決の心

長谷寺

長谷時(真田氏の菩提寺)
 幸隆夫妻、昌幸の墓がある。

真田氏本城跡

真田氏本城跡

信綱寺遠景

信綱寺遠景
長篠の戦いで討死した幸隆の長男信綱夫妻の墓がある。

 

先日、真田の里を巡る機会がありました。真田幸村(信繁)の父昌幸や祖父幸隆にゆかりの寺院や城跡などを散策し、歴史の重さとロマンを身近に感じることができました。いよいよ大河ドラマ「真田丸」も始まります。改めて戦国の時代に思いを馳せてみたいと思っています。

今回は、私と問題解決との出会いについてお話ししたいと思います。話は、会社に入ってソフトウェアの開発を始めた頃にさかのぼります。もう40年近く前のことですが・・・

もちろん、まだPCが生まれる前で、ソフトウェアのことなど、ほとんど知られていない時代でした。私も、訳も分からないままにそんな世界に飛びこんだのです。

ソフトウェアの開発では、不具合(バグと呼ばれています)の改修がつきものです。当時は、今のように便利な開発ツールがあるわけでもなく、多分に感覚的なバグ探し、バグ潰しでした。感覚を解き澄ませて、ちょっとしたコンピュータの動きや表示されるメッセージなどからバグを見つけていくのです。まずこの辺りがあやしい、とアタリをつけるのですが、先輩は事もなげにやってしまいます。直観が働くのでしょう。そんな先輩の鋭さにはいつも驚かされていました。何時になったら自分も先輩のようになれるのだろう、と途方にくれたものです。

もちろん、誰もバグ探しのコツを教えてはくれません。ところが、不思議なもので、見よう見まねでやっていたことが、だんだんと身に付いてくるものです。先輩は日頃は厳しいのですが、仕事を離れると、お酒を飲みながらいろいろな話をしてくれました。そんなおかげもあったのかもしれません。先輩の話の中に、「厄介なバグは夢の中で見つける」というものがありました。そんなことがあるのかと半信半疑だったのですが、実際に経験することになろうとは、思ってもみませんでした。

システムの保守を担当することになってしばらく経った頃、不具合発生の連絡が入りました。なんとしても解決してやろう、とひとり現地に向かったのですが、この不具合はとても難問でした。不具合を起こそうとしても、なかなか再現できないのです。起きてほしい時にはなかなか起こらないものです。そうこうするうちに、一日が過ぎ、二日が過ぎてしまいました。

ようやく現象は分かったのですが、その原因がなかなか分かりません。不具合の現象から様々な仮説を立てるのですが、どれも当たりませんでした。今度こそ間違いない、と思っても、裏切られてしまうのです。正直、逃げ出したくなりました。そうこうしているうちに、とうとう夢の中でバグ探しを始めていたのです。よっぽど追い込まれていたのでしょう。夢の中で見つけたヒントをたよりに、ようやく不具合の原因にたどり着き、無事バグを修正することができました。今となっては、その原因が何だったのか覚えてはいませんが、たしか、複数の原因が絡んでいたように記憶しています。解決までに、ちょうど一週間が過ぎていました。

今思えば、この一週間、あきらめずに一人でバグと向き合ったことが、その後の私に大きな影響を与えてくれたように思います。その後も、いろいろと困難な場面を経験しましたが、その時の経験があったおかげで、どうにか乗り越えてこられたと思っています。ちょうどその頃、問題解決で有名なワインバーグ先生を知りました。私が実際に経験したことから、ワインバーグ先生の話に共感できるところも多く、ソフトウェア開発と問題発見・問題解決に共通する点に気づくことができました。

私たちのまわりにはいろいろな問題がありますし、予期しない問題も起こるものです。そうは言っても、できれば問題には関わり合いたくないのが人情でしょう。また、感情的な行き違いが、解決を一層難しくしてしまうこともあります。でも、問題から目を背けてしまっては、問題を解決することはできません。まず問題と向き合うことが、解決への第一歩なのです。また、最初に問題を見誤ってしまうと、その解決をこじらせ、もぐら叩きの迷路に迷い込むことになりかねません。問題解決は、最初が肝心なのです。まずは、問題を冷静に受け止め、問題の本当の姿を知ろうとすることです。問題が起きると、つい解決を急いでしまいますが、そんなことも問題を見誤ってしまう一因かもしれません。

どんなに困難に見える問題にも、必ず解決策や解決の糸口があるはずです。また、問題解決に取り組むことで、新しい発見や気づきが生まれ、ピンチをチャンスに変えるヒントに出会うこともあります。そのためにも、問題に向き合い、解決をあきらめない心を育てることが大切だと思うのです。

 

「私は頭が良いわけではない。ただ人よりも長い時間、問題と向き合うようにしているだけである。」

アインシュタイン