新しいスキルモデルでは、ヒューマンスキルの源泉として「思考力」を含め、「コミュニケーション力」、「計画力」、「問題解決力」、「成長力」および「育成力」の六つの力を定義しています。ですから、これらの力を伸ばすことによって、ヒューマンスキルを開発することが可能になるのです。
六つの力の中には、既に皆さんが身につけたいと思っているものがあるかもしれません。
また、自分の得意なものを、さらに強化していくのも良いでしょうし、自分が弱いと思うものを、補強していくことも良いでしょう。いずれにしても、これらの力を伸ばしていくことが、ヒューマンスキルを開発することにつながっていくのです。
誰かから言われてやるのではなく、自らが自発的に学ぶこと、そのことで、皆さんのまわりには学びの機会がたくさんあることに気づくはずです。そんなセルフスキルアップこそ、ヒューマンスキルを身につける方法として最適なものなのです。
そこで、ヒューマンスキルを開発するための留意点を、いくつかあげてみたいと思います。
当たり前のことを当たり前に
ヒューマンスキルには、何か特別なことや、難しいことが求められているわけではありません。既に皆さんが知っていることや平易なことがほとんどです。先に述べた六つの力の説明からも、そうしたことがお分かりいただけると思います。どれも言われてみれば当たり前のことなのです。でも、そうした当たり前のことが、案外できていないものです。当たり前のことほど、実際に行うとなると難しいものなのかもしれません。
ヒューマンスキルは、実践のスキルです。頭で理解するだけでは身につけることはできません。当たり前のことを当たり前に行うこと、そして、その事を習慣化して、行動変容につなげていく、そのことが、ヒューマンスキルを育てることにつながるのです。
当たり前のことができていない時、そのことをマイナスに受け止めるのではなく、それはどうしてなのか、ちょっと考えてみましょう。ひょっとしたら、自分の中の何かが邪魔をしていることに気づくかもしれません。そんな自分に対する「気づき」が、ヒューマンスキルを伸ばすためにはとても大切です。
そうした「気づき」は、今まで知らなかった自分の姿を教えてくれると同時に、皆さんに新しい目標を教えてくれるものかもしれません。
あくまでも自分のペースで
どんなスキルでも、身につけるための鉄則は、急がないことです。
自分にあったペースで取り組めば良いのです。まして、ヒューマンスキルはその人の性格や価値観などに根差している所も多いものですから、一層そのことが言えると思います。また、若いうちは、仕事で覚えなくてはならないこともたくさんあるでしょう。まずはそちらが優先です。
この目まぐるしい時代に、のんびりしているように聞こえるかもしれませんが、ヒューマンスキルが新しい行動を身につけること、大げさに言えば自分自身を変えることなのですから、時間がかかるのも無理もないことなのです。
自分づくりのためには、複線のアプローチが必要です。急ぐべき時は急ぎ、じっくり取り組むべき時には時間をかけることです。急いで身につけたものは、失うのも速いものです。
急ぐ必要はありません。自分にあったペースで、ゆっくり、そしてじっくり取り組めばよいのです。
ヒューマンスキルを育てる
世間でヒューマンスキルと呼ばれているものと、スキルモデルで定義した六つの力の間に違和感を感じられている方もいらっしゃるかもしれません。そこで、この点について少しお話ししたいと思います。
一般にヒューマンスキルと呼ばれるものは、人の姿勢や言動などを現象面から捉えたもの、言い換えれば、目に見えるものと言えるのではないでしょうか。一方、その背景で、何がそれらを支えているのかについては、今まであまり考えられていなったように思うのです。そのため、ヒューマンスキルを伸ばそうとすると、どうしても表面的な掛け声になってしまったようです。
例えば、責任感を持とう、積極的に取り組もう、向上心が大切だ等々・・・
これらは、意識としては良いのかもしれませんが、残念ながら、ヒューマンスキルを伸ばすための具体的な解にはなっていません。このことが、ヒューマンスキルを身につけるための方策が見つけられず、長い間自然発生に任されていたことの理由なのかもしれません。
そこで、お話ししている六つの力に行きつくのです。ヒューマンスキルを背景で支えているのが、これらの六つの力なのです。これらの六つの力を、持って生まれた性格や、獲得している資質などと組み合わせることによって、広い意味でのヒューマンスキルが身についていくのです。
また、時代の変化によって、ヒューマンスキルに求められるものも変わっていくものと思われます。最近では、多様性(ダイバーシティやインクルージョン)や変化への対応力、新しいものにチャレンジする力といった新しいヒューマンスキルが求められています。そうしたヒューマンスキルも、これらの六つの力を深めることで、身につけることができるのです。
目先の変化にばかり目を奪われていると、せっかくの自分づくりの機会を逃してしまいかねません。変わっていくものと、変わらないものを見極める力が求められているのです。
これらの様子を下図に示します。
メンバーからリーダーへ
ヒューマンスキルとしてあげている六つの力は、いずれもリーダーやマネジャーに求められるものでもあります。リーダーシップは誤解されていることが多い言葉ですが、その源泉もこれらの六つの力であると考えています。こうした裏付けがないと、リーダーシップも中身のないものになりかねません。
前にも述べましたが、六つの力、そしてヒューマンスキルを身につけるためには時間が必要です。リーダーやマネジャーになったからといって、すぐに身につけられるものではありません。メンバーの時から、ヒューマンスキルの開発に取り組むことが大切なのです。
ヒューマンスキルのモデルは、ヒューマンスキルを開発するための道しるべであるのと同時に、メンバーが、リーダーやマネジャーに成長することを支援するためのモデルでもあるのです。言い換えれば、メンバーがヒューマンスキルを開発することは、リーダーやマネジャーになるための大切な準備作業なのです。
さあ、一歩踏み出そう
かつて、インドの仲間と仕事をした時に、彼らから教わったことがあります。分からないことについて彼らに質問すると、答えの代わりにいつもこう言うのです。
More Thinking!!
そうです。答えは自らが考え導き出すものです。まして、今日のような時代には、答えが簡単には見つからない問題、正解のない問題がたくさんあります。一方で、安易に答えを求める風潮が強まっているように思えてなりません。そんな今だからこそ、この教えは貴重なものだと思うのです。
もう一歩、今のやり方を工夫してみる。新しい取り組みにチャレンジしてみる。そのためにも、まわりの意見に真摯に耳を傾ける。そんなオープンな姿勢を持ちたいものです。
その積み重ねが、きっと「できそうにない」ことを、「できる」に変えてくれるのかもしれません。
さあ、まず一歩を踏み出しましょう!!
Have A Nice Trip!!