4月になり、信州上田もすっかり春めいてきました。桜もそろそろ咲きそうです。今回は、ワインバーグ先生のお話しの続きで、問題発見・問題解決を取り上げたいと思います。
皆さんの職場や身の回りで起きる様々な問題、そうした問題に対して、問題解決者として振る舞うことを求められたとき、皆さんは、問題解決者として有効な解決策を示すことができているでしょうか?容易に解決できる問題なら良いのですが、悩ましい問題の解決を任された時には、空から万能の解決策が降ってくることを祈りたい心境になりますよね。
ワインバーグ先生は、コンサルタントとして、長年クライアントの問題発見や問題解決に取り組んでこられ、そうした経験をもとに、「ライトついてますか-問題発見の人間学-」や「コンサルタントの秘密-技術アドバイスの人間学-」などの著書を書かれています。原書が書かれてからすでに30年も経っているのですが、本屋さんにならんでいるのを見かけると、ちょっとうれしい気持ちになります。そこには、人が問題に巻き込まれてしまった時に、どんな行動をとるのか、とってしまうのか、また、どう行動することがお勧めなのかが、ユーモアをまじえて描かれています。詳細はこれらの著書をご覧いただくとして、ここでは、特に印象に残っていることや、実際に役に立ったことを紹介してみたいと思います。
問題解決では、最初に見えたものを問題の全てと思い込んで、すぐに解決を始めてしまいがちです。まして、あなたが問題の当事者であったり、だれかがすごい剣幕で「早くなんとかしろ!」と怒鳴っている場合は特にそうですよね。そのために、そもそも何が問題で、何を解決しようとしているのかを見失ってしまうことにもなりかねません。
ワインバーグ先生は、問題を見つけた時に、すぐにその解決に飛びつくことを戒めています。特に、いろいろな人が関係している問題では、問題を取り巻く人の立ち位置によって見え方が違ってくるので、まずは問題の全体像を見極めるように、と教えています。ある人にとっては、大問題で、一刻も早く解決してほしい問題も、別の人にとっては、なんの不都合も感じない、あるいは、問題視されること自体が迷惑だ、ということさえあるのです。実際の現場では、問題の全体像を見極めることは簡単なようでなかなかできないものです。それだけに、重い教えであると思います。
また、ワインバーグ先生は、問題解決者自身の先入観や思い込みが、ものごとをありのままに見ることを邪魔してしまい、そのことが問題の解決を妨げ、はたまた新しい問題を作り出してしまう、と指摘しています。誰でも先入観や思い込みはあるものです。でも、そうした先入観や思い込みが自分の視野を狭めていることに気づいている人は、どれだけいるのでしょうか。
私たちは、何か問題があると、つい見て見ぬふりをしたり、問題のすり替えや悪者さがしに走りがちです。そのために、せっかくの問題解決の機会を失い、不毛な議論を続けることにもなりかねません。問題をありのままに見ること、認めることによって、そもそも何が問題なのか、何を解決すれば良いのかが明らかになれば、もっと建設的でオープンな議論が行われ、有効な解決策を見出すことができるのかもしれません。さらに、問題の正体を明らかすることができて、そのことが関係者に共有されるだけで、問題が自然に解決に向かい始めることもあるのです。
ワインバーグ先生の著作は、問題の解決を迫られている人にとっては、答えが与えられずに遠回りしているように思われるのかもしれません。たしかに、ワインバーグ先生の言葉は、答えを教えるというよりは、様々な自問自答の方法を教えているようにも思われます。でも、そうした自問自答を繰り返すことによって、問題をより深く理解することを助け、その根本的な解決にたどり着くことを可能にすると思うのです。私は、この自問自答のプロセスこそが、「考える力」、そして「知恵を生み出す力」を鍛えていくものであると思っています。
現在のビジネスにおいては、様々な問題を解決していくことが求められます。しかも、スピードも求められているため、ややもすると、自分で考えようとしないで、答えだけを求める傾向があるように思われます。そういう時代だからこそ、じっくりと「考える力」を養うことが大切だと思うのです。近道をしようとして、道を見失ってしまっては元も子もありません。万能に見える答えも、皆さんの問題を解決してくれる保証はありません。また、私たちを取り巻く環境や発生する問題は日々変化しており、昨日の解決策が今日の問題発生源になっているかもしれません。
解決することがとても困難に思える問題が解決できた時の達成感は、何ともいえないものです。まして、問題を取り巻く人々の協力によって解決できた時はなおさらです。問題が解決できたことで、たくさんの人たちが満足し、喜んでくれることでしょう。それと同時に、問題解決に取り組んだ人々は、ものごとを冷静に見る眼や、より深く考える力を手に入れることができるのです。今まで見えていなかった景色が見えてくるに違いありません。あなたも、問題解決の世界にチャレンジしてみませんか。あなたにとって、「きっとお得ですよ。」
先日、技術評論社のHP(http://gihyo.jp)の中に、ワインバーグ先生のインタビュー記事を見つけました。ワインバーグ先生は、SF小説を書くことにもチャレンジしているそうです。70歳を過ぎてなお、新しい世界にチャレンジされ、学ぶことに貪欲なワインバーグ先生に、さらに尊敬の念を強め、勇気づけられた次第です。
以下の文献を参考にさせていただきました。
「ライトついてますか-問題発見の人間学-」
ドナルド・G・ゴース、G・M・ワインバーグ 著 木村 泉 訳 (共立出版) 1987
「コンサルタントの秘密-技術アドバイスの人間学-」
G・M・ワインバーグ 著 木村 泉 訳 (共立出版) 1990