葛飾北斎に思う

北斎館

北斎館

岩松院

岩松院

先日、小布施を訪れる機会がありました。小布施というと栗で有名ですが、また、葛飾北斎の町としても有名です。平日にも関わらず、多くの観光客でにぎわっていました。「北斎館」で「北斎漫画」や祭屋台の天井絵などを見てから、岩松院の天井絵「八方睨み鳳凰図」を鑑賞しました。するどい目力に、心の中まで覗かれているうな、そんな気分になりました。いずれも、ぜひ一度見たいと思っていましたので、時間を忘れて見入ってしまいました。

 

言うまでもなく、葛飾北斎は、「富嶽三十六景」などで有名な江戸時代の浮世絵師です。また、ゴッホをはじめ、世界の多くの画家や音楽家に影響を与えたと言われています。

北斎が「北斎漫画」を描いたのが50歳代、「富嶽三十六景」は60歳代から70歳代の作品です。いずれの作品も、まったく年齢を感じさせません。「北斎漫画」には約4,000点もの様々な風物や人物などが描かれていますが、これらは時にコミカルであり、現代のイラストやポップアートにも通じるものがあります。

葛飾北斎が小布施を訪れたのは計4回、いずれも80歳を超えてからと言われています。岩松院の「八方睨み鳳凰図」は4回目に訪れた時、北斎88歳から89歳にかけての作品だそうです。江戸から小布施まではざっと260Km。老人にとっては、厳しい旅であったに違いありません。晩年、自らを「画狂老人(がきょうろうじん)」と呼び、生涯、絵画に対する熱い思いを抱き続けた北斎。そんな思いが小布施までの長旅を支えたのでしょう。

葛飾北斎の人生に思いを馳せると、人の持つ可能性について考えさせられます。人が成長する力には、年齢は関係ないのかもしれません。何かを目指したり、何ものかになりたいという強い思いを持ち続けていれば、いくつになっても成長することができるのでしょう。人は、年を重ねると、できないことをとかく年齢のせいにしがちです。もちろん、体力など、若い人にはかなう訳がありませんし、年齢とともにできないことが増えてくるのも事実です。でも、年齢を重ねているからこそできること、若者にはとても真似のできないことがあるのも事実です。

北斎は、90歳で人生の幕を閉じますが、死に臨んで、こんな言葉を残しています。

「天があと5年の間、命保つことを私に許されたなら、必ずやまさに本物といえる画工になり得たであろう」

最期まで、さらに上を、本物を目指していたのです。

北斎の様にはなれないにしても、いくつになっても成長する心を失わずにいたいものです。

小布施の街並み

小布施の街並み

 

そして世界は動いている

朝日と別所線

朝日を浴びて走る別所線

 

新しい年、2017年がスタートしました。お正月三が日、信州上田は、お天気にも恵まれ、穏やかなお正月を迎えました。

昨年は、信州上田は大河ドラマ「真田丸」一色の年でしたが、世界に目を転じると、世界中を驚かせるニュースが駆け巡った一年でした。大方の予想に反してイギリスは国民投票でEUからの離脱を決め、アメリカ大統領選挙では、トランプ候補が45代目の大統領に当選しました。これらのニュースは、今までの世界秩序の大きな変貌を予感させるもので、多くの皆さんが漠然とした不安の中で新年を迎えられたのではないでしょうか。

言うまでもなく、EU(ヨーロッパ連合)は、二度の世界大戦で荒廃したヨーロッパを復興し、平和を実現するために生まれたものです。EUの前身EC(欧州共同体)は、当初6ヶ国でスタートしましたが、現在は、28の国々が加盟しています。このEUから、しかも大きな影響力を持つイギリスが離脱するというのですから、ただ事ではありません。今回のイギリス離脱の直接の引き金は、ヨーロッパ各地で続発するイスラム国のテロや多数の難民の流入と言われていますが、どうもそれだけではないようです。加盟各国の自主性とEUの権限の優劣の問題、言い換えれば、加盟国のアイデンティティの問題や、EUに対する不平等感、さらには改善されない高い失業率(EU平均10%)への不満など、以前から。EUに対する不信感も根強く存在しているのです。それにしても、繁栄と平和を実現するために、ヨーロッパから国境を無くすという壮大な夢が、結果的にテロの拡散を招いてしまったことは、残念な皮肉です。

トランプ大統領の誕生も、大方の予想を裏切るものでした。予備選挙中から、その品性を疑いたくなるような暴言に、多くのアメリカ国民が眉をひそめているとの論調がメディアで伝えられていました。ところが蓋をあけてみると、予備選挙で共和党候補になり、さらには本選挙でも勝利を収めたのです。そのことは、実はトランプ候補が言っていたことには(その全てではないにしても)、多くの国民の本音も含まれていたのかもしれません。工場が海外に移転したために、職を失い、賃金の低下に苦しむ人々(特に白人の中産階級と言われています)の不満が渦巻いていることも確かでしょう。さらに、頻発するテロや不法移民の問題も、現状への不安や不満を後押ししていると思われます。これらの問題を単純化して攻撃的な言葉で喝破し、感情に訴えたトランプ候補への期待が、票につながったのかもしれません。

ただ、トランプ大統領の誕生が、パンドラの箱をあけてしまったことは確かです。グローバリズムを率先してきたのは他ならぬアメリカですし、ここに来て、マイノリティに対する差別や迫害が増えているとの報道もあります。また、トランプ大統領の誕生は、フランスやイタリア、さらにドイツでのナショナリズムやポピュリズムを勢いづかせています。感情に訴えることは、一歩間違えると感情を煽ることにつながりかねません。多様性を認め、自由と平等、博愛という価値観を持つアメリカはどこへ行ってしまったのか、と思わざるを得ません。

そんな中で、ボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞したニュースも、世界中を驚かせました。彼の楽曲が文学なのか、そんな議論も起こりましたが、言葉の力で、様々な問題と立ち向かった彼の楽曲が評価されたことは、理性と感情、寛容と独善に二極化する現在の世界を象徴しているようにも思われます。

どんなに意外に見える事実にも、然るべき理由があるものです。先程お話した二つのサプライズニュースも、当事者の視点で見ていくと、その必然性が見えてくるのかもしれません。これらのニュースは、解決すべき問題が山積していることを物語っているのでしょう。しかも、どれも解決が難しい問題ばかりです。それらの問題を、例えば、グローバリズム対保護主義などという単純な図式で捉えたり、あるいは難民や違法移民の問題とすり替えてしまっているとしたら、問題の本質から目をそらし、新たな分断を招くことにもなりかねません。

今年一年、何が起こるか予想することも難しいのですが、大きな歴史の転換点になることは間違いなさそうです。また、こうした動きは、日本、そして私たちの日々の生活にも様々な影響を与えることでしょう。山積する問題を解決するために、人々の英知が今ほど求められている時代はないのかもしれません。

視野を広げる

上田城の紅葉

上田城の紅葉

真田神社

真田神社

 

先日、会社時代の友人が信州上田を訪ねてくれました。大河ドラマ「真田丸」の影響もあってか、上田城跡をぜひ訪ねたいとのことで、上田城下から塩田平、別所温泉などを案内しました。ちょうど紅葉も見頃で、信州上田をとても気に入ってくれたようでした。私には見慣れた景色でも、都会暮らしの友人には新鮮に映ったのでしょう。盛んにシャッターを切っていました。真田丸大河ドラマ館の入館者も100万人に迫る勢いとのことです。全国から訪れた多くの皆様に、信州上田の良いところを感じて頂けたらと思っています。

私たちは、誰でも自分の世界の中で生きているものです。意識しているかどうかは別として、様々な感情を抱いたりものごとを考えたりする時にも、その人が持っている様々なルールや価値観などが反映されているのでしょう。そもそも、ものごとを見たり感じたりできる範囲、すなわち「視野」も人によってまちまちです。今日の様に複雑な時代では、同じものごとを見ても、人によって真逆の結論にたどりつくことも往々にしてあります。ものごとを多面的に見て、より生産的で納得できる結論を得るためにも、広い「視野」を持つことがますます大切になっていると思います。そこで、今回は「視野」を広げることについてお話してみたいと思います。

私たちは、自分に見えていることが全てだと思いがちです。いくらものごとの全体を見ているつもりでも、実は自分の「視野」からものを見ているに過ぎないのです。もちろん、私も含めて・・・。ですから、一部を見て全体と見誤ったり、自分の間違った思い込みを助長してしまうのでしょう。また、自分に見えているものが他の人には見えていないことや、その逆に自分には見えていないものがまわりの人には良く見えていることもあり、そのことが、様々な行き違いを生じさせる原因になっているのかもしれません。

自分に見えていることが全てだと思っていることが、「視野」を広げることを妨げてしまっているのかもしれません。自分に見えているもの、感じているものがものごとの全てではないことを知ることが、「視野」を広げるための第一歩なのでしょう。今見えている世界の先には、まだ自分が知らない世界が広がっているのです。そして、その中に自分が探しているものや求めているものがあるのかもしれません。もちろん、「視野」を広げることは容易いことではありませんし、時間も必要です。長い間住み慣れた世界を変えることには戸惑いもあるでしょう。急がず、たゆまず歩んでいくことが大切なのです。

私は、人の成長は、その人の「視野」が広がることだと思っています。経験を積むことで見えてくることもたくさんあるでしょうし、学ぶことで自分が知らないことに気づくこともあるでしょう。自分の知らないこと、足りていないことに気づくことは「視野」が広がっていることを示しているのです。自分の知らない世界に踏み込んでみる、そんな日々の心がけが「視野」を広げるきっかけになるのかもしれません。

「視野」が広がることは、自分の世界が広がることなのです。今まで見えていなかったものが見えるようになり、そのことが新しいチャレンジにもつながるものです。このことは、ビジネスでは勿論ですが、なによりも人が幸せに生きていく上で大切なことなのかもしれません。成長を続ける人は、自分の「視野」を広げるすべを経験的に知っているのでしょう。そして、そのための努力を日々続けているのかもしれません。

自分を変える力

あじさい小道

あじさい小道

塩田城址

塩田城址

 

信州上田では、アジサイが見頃です。前山寺から塩田城祉を経て塩野神社へと続く「あじさい小道」では、約3万株のガクアジサイが咲き誇っています。塩田城は、鎌倉時代の塩田北条氏に始まり、戦国時代には、上田原の戦いで武田信玄を苦しめた村上義清の居城ともなりました。素朴な風情に癒される、そんな小道です。

長い社会人生活や人生を送る中で、上司や同僚、そして家族から、自分の足りないところを気づかされることがあります。なかには、厳しい指摘もあるでしょうし、やんわりとした言葉の中に、思いが詰まっていることもあったりもします。皆さんは、そうした時にどのように反応していますか?

人から自分の足りない所を指摘されて、気持ちの良い人はいないでしょう。自信を無くして落ち込んでしまうこともあるでしょうし、「そんなことはない」と否定したり、さらには相手との人間関係が悪くなってしまうこともあるかもしれません。自分を否定されたと思って、自分を取り繕い、守ろうとしてしまうのです。相手にはそんな気持ちは無くて、良かれと思って言ってくれたのかもしれないのです。

一方で、指摘されたことを生かして、自分を高めていける人もいます。自分の足りない所を補い、一歩ずつ成長しているのです。小さな一歩でも、積み重ねて行けば、長い間には大きな違いを生むことになるのかもしれません。

このような違いはどこからくるのでしょうか。よく言われることですが、自分の足りないところに気づくことは、自分の伸びしろを知ることでもあるのです。頭では分かっていても、実際に耳の痛い話をされると、素直には受け入れられないものです。でも、そんな話こそ、「自分づくり」のための大切なメッセージや自分を変えるヒントが隠れているのかもしれません。ですから、耳の痛い話にも心のシャッターを下ろさないで、素直に耳を傾けて、相手の真意を理解しようとすることが大切なのです。

自分を変えたいと思っても、今の自分は長い年月をかけて培われてきたものですから、そう簡単には変えられないかもしれません。でも、あなたが自分の本当の姿に気づき、心から変わりたい、こうなりたい、と思うことができれば、きっと変われるのではないでしょうか。また、「なりたい自分」について、具体的な目標を持つことも大切なことです。最初からあまり欲張らないで、まずは手の届きそうな目標を立ててみることが良いかもしれません。そして、その目標に向かって一歩を踏み出してみるのです。そして、その一歩を習慣になるまでやり続けることです。例えどんなに小さなことでも、自分の努力で自分を変えることができれば、それは一生の宝物になることでしょう。人生は、「自分づくり」の旅なのです。生涯をかけて、一歩ずつ自分にあったペースで自分を磨いていけば、いつかは「なりたい自分」を手に入れることができるのです。

 

企業の不祥事に思う

田園を走る真田丸ラッピングトレイン

田園を走る「真田丸ラッピングトレイン」
-遠く真田の里を望む-

「真田丸ラッピングトレイン」

「真田丸ラッピングトレイン」
-八木沢駅-

 

信州上田の塩田平も田植えが終わり、蛙の合唱がにぎやかです。この春から登場した別所線の「真田丸ラッピングトレイン」と、田植えが終わった田園風景のコントラストもまた風情があります。近頃、塩田の田舎道を走る観光バスが増えてきました。これも「真田丸」効果でしょうか。

このところ、大手電機メーカーの不正会計問題やマンションのくい打ち偽装など、企業による不祥事のニュースが絶えません。コンプライアンスが叫ばれている中で、信じられないような事件ばかりです。自動車業界でも、フォルクスワーゲンの排ガス問題や三菱自動車による燃費データの不正が起きています。三菱自動車は、過去にも重大なリコール隠しがあり、企業の存続自体が危ぶまれたことがありました。その時に行われた社員への聞き取り調査では、「組織の極度な縦割り」や「上を見て発言を控える習慣」などの企業体質の問題が洗い出されていたそうです。もし、こうした問題について真摯な取り組みが行われていれば、今回の燃費不正を防ぐことができたのかもしれません。このことは、組織の風土を変えることの難しさを改めて示しているように思います。

今回の燃費データの不正問題のもうひとつの要因として、熾烈を極める燃費競争があげられます。軽自動車は、維持費などの安さが売り物ですから、燃費性能が売り上げの良し悪しに影響することは間違いありません。今回の燃費不正問題では、対象車種の開発に当たって5回の燃費目標の引き上げがあったと報道されています。他社が次々と最高燃費を更新するのに従って、燃費目標も引き上げられていったようです。経営サイドからの最高燃費実現のチャレンジも厳しく、いつしか目標は実現不可能なものになっていったと思われます。実際に不正を行ったのは実験性能部と言われていますが、本来、燃費性能を向上させるのは開発部門全体の役割のはずです。はたして、本来の燃費向上の努力がどこまで行われたのか、また、燃費目標の実現できないことが、どこまで共有されたのかが、この問題の鍵のように思われます。いずれにしても、熾烈な燃費競争と、組織的な問題が絡み合わさって、結局今回の不正が引き起こされたのでしょう。

自動車業界は燃費競争の他にも、電気自動車や燃料電池車などの技術革新の最中にあります。また、今後は自動運転などへの取り組みも求められており、自動車産業自体が大きな変化の中にあるといってもよいでしょう。結局、今回の問題は社長の引責辞任から、三菱自動車が日産自動車の傘下に入るという、自動車業界の再編へと発展しましたが、これらも必然の流れなのかもしれません。

どんなに大きな企業でも、一度信頼を無くしてしまうと、その存在自体が危うくなる時代です。長い年月をかけて築いてきたお客様の信頼も、あっという間に崩れてしまいます。組織的な問題や不正などが常態化した組織では、あきらめや、無力感などのために、本来行われるべき地道な努力や創造的なチャレンジを生み出す力が奪われてしまうのかもしれません。そうならないためにも、ひとりひとりが持てる力を発揮できる、健全な企業体質を育む努力が欠かせないのです。そのことが、変化の激しい今日、企業が生き残り、成長する鍵になっていると思うのです。

 

ディープラーニングとAI

上田真田まつり 武者行列

上田真田まつり 武者行列

上田真田まつり 真田鉄砲隊演武

上田真田まつり 真田鉄砲隊演武

上田真田まつり 決戦劇

上田真田まつり 決戦劇

4月24日(日)に、「上田真田まつり」が催されました。武者行列には、大河ドラマ「真田丸」で真田昌幸を演じる草刈正雄さんをはじめ出演者の方々も参加して、花を添えていました。また、午後には真田鉄砲隊の演武や第一次上田合戦をモチーフにした決戦劇が行われ、その迫力ある演武に大きな歓声が上がっていました。

先日、グーグルの「アルファ碁」1が世界的な棋士、李九段(韓国)に4勝1敗で勝ったことが報じられました。既にチェスや将棋ではコンピュータが人間に勝っていますが、囲碁はその局面や打つ手の多さから、コンピュータが人間に勝つのにはまだ10年はかかる、と言われていたものです。

「アルファ碁」のソフトウェアには、囲碁のルールが組み込まれていないそうですが、そこが、従来のルールに基づく人工知能(以下AI※2)とは大きく違っているところなのです。「アルファ碁」には、ディープラーニング(深層学習)※3という人間の脳をモデルにした技術が使われています。グーグルでは、このディープラーニングの技術を使って、AIが「ネコの顔」を識別できるようになったそうです。従来は、「ネコの顔」の特徴をコンピュータに教える必要がありましたが、コンピュータ自らが学習してルールを生み出すことを可能にしたのです。「アルファ碁」では、グーグルが持つ大規模なコンピューティング環境を活用して、3000万局という膨大な自己対局をこなしたといいます。仮に毎日100局指したとしても、約800年はかかる膨大な数です。こうした対局から様々な局面を学習し、世界的な棋士にも勝てるだけの実力を身に付けていったのでしょう。ただ、一方で、プロはまず打たない手を打つなど、その弱点も見えてきたようです。コンピュータ自らが学習したルールが人間には見えないだけに、その解析もかなり難しいようです。

 

AIというと、一見私たちには縁遠いようですが、私たちの身の回りには、既にたくさんのAI的なものが存在しています。例えば、身近なスマホの音声認識は、一昔前のものと比べると格段に進歩しています。さらに、Siriなど、アシスタントとしての人格を持っているようにもみえます。また、YouTubeやAmazonなどのサイトでは、閲覧者の好みを先取りした検索が行われていますし、ロボットも、最近ではサービスやコミュニケーションのツールなどに適用分野も広がっています。自動運転もAIの応用分野として、各社がその開発に鎬を削っているのはご存じのとおりです。もちろん、こうしたAIの全てが「アルファ碁」のようにディープラーニングが適用できるわけではありませんが、適材適所でその可能性が模索されはじめています。

今まで、AIはブームと停滞期を繰り返してきました。日本では1980年代に通産省が音頭をとって第五世代コンピュータプロジェクトが行われ、世界に先駆ける試みがなされました。ディープラーニングのもとになっているニューラルネットも、そのころに産声をあげたものです。ところが、残念ながら当時のコンピュータの能力は現在のものとは比べ物になりませんでしたし、ネットワークやクラウドそしてビッグデータなどももちろん存在してはいません。そのために、大きく膨らんだ夢も失望に変わってしまったのです。ところが、これまでの技術の進歩によって、ようやくAIを実用化するための基盤が揃ってきたように思われます。Androidの生みの親アンディ・ルービン氏も、「アルファ碁」は「AIの潜在能力のごく一部」に過ぎず、今後さらにその応用が加速するといっています。また、「クラウドコンピューティングこそAIの頭脳であり故郷」だとも言っています。

今後は、ニューラルネット専用のチップや学習機能のハードウェア化なども進み、新しいインフラであるクラウドコンピューティングやビッグデータなどがAIを支える基盤になることでしょう。サイバー空間の安全対策やセキュリティ問題などの課題もありますが、AIがこれからの世界を変える力になることはどうやら間違いなさそうです。AIを救世主にできるのか、それとも悪魔の使いにしてしまうのか、いずれにしても、私たち人類の「考える力」が試されそうです。

 

※1 「アルファ碁」・・・グーグル傘下のディープマインド社が開発した人工知能(AI)

※2 AI・・・Artificial Intelligence(人工知能)の略

※3 ディープラーニング(深層学習)・・・機械学習の手法のひとつ。多層化されたニューラルネットから構成されており、マシンが学習データから自動的に特徴やルールを抽出する。

以下の文献を参考にさせていただきました。

日経ビジネスONLINE 「AIの「人間超え」、その時トップ囲碁棋士は」 高尾紳路 (日経BP社) 2016/3/19

 

続 問題解決の心

上田城千本桜まつり

上田城千本桜まつり

上田城千本桜まつり

上田城千本桜まつり

 

4月6日~17日の間、「上田城千本桜まつり」が開催されました。今年は、大河ドラマ「真田丸」のおかげもあって、県外からもたくさんの方が訪れ、満開の桜を楽しんでいました。

 

前回まで、問題を解決するための知恵の出し所や、その際に陥り易い落とし穴などについて、お話をしてきました。今回は、そのひと区切りとして、問題解決力を高めるための心がけについてお話ししてみたいと思います。

問題解決というと、専門家や一部の人が行うものと思われがちですが、程度の差はあるものの、実は誰もが避けて通れないものなのかもしれません。社会の変化や価値観の多様化などによって、ビジネスの現場や私たちの身の回りで起きる問題が複雑で難解になっている今日では、なおのことです。もちろん、専門家の助けが無ければ解決できない問題があることは確かですが、その場合でも、問題の当事者が問題自体を正しく見定めることができれば、専門家の支援などもずいぶん受けやすくなりますし、問題もより良い形で解決することができると思うのです。

問題を解決することは決して簡単なことではありませんが、前回までお話ししたステップをひとつひとつ確実に行っていけば、問題の解決策に近づくこと、見出すことができるものです。例えどんなに困難に思える問題でも、あきらめずに考え抜くことで、解決の糸口が見つかるはずです。

ところが、人は自分に見えている世界の中で問題を解決しようとするものです。ですから、いくら考えても、問題の真因や解決策が自分の視野の中に入ってこないと、なかなか問題を解決することはできません。問題を解決するためには、素直にそして広い視野で問題と向き合い、新しい視点や発見を受入れることが求められます。そのためには、従来の自分の考えや思い込みを疑ってみることも必要なのかもしれません。日頃、自分の視野について意識することはあまりないものですが、何か問題が起こって、いざ解決しようとすると、自分の視野や自分を束縛している固定観念などに気づかされるものです。逆に言えば、問題解決に取り組むことで、自分に見えている世界を知り、自分の視野の限界に気づくことができるのです。

また、実際に問題を解決する場面では、緊張やストレスが伴うものです。そのような状況では、普段よりもさらに視野が狭くなってしまい、いつもは見えるものも見えなくなったり、冷静な判断が行えなくなってしまいます。自動車を運転している時に、スピードを増すと視野が狭くなりますが、それと同じことが、問題解決でも起きるのです。日頃から、より広い視野でものごとを考え、どんな時にも平常心でいられることも、問題解決力を向上させるためには大切なのです。

問題解決では、ものごとを論理的に考える力はもちろん必要なのですが、それだけで十分とは言えません。その人が身に付けている視野の広さや、新しい発見や気づきを受入れる心の柔軟さがものをいうのです。また、あきらめずに考え抜くこと、前向きで建設的な心を失わないことも大切です。そして、これらのひとつひとつが、私たちの成長や人間形成にも繋がっているのです。私が問題を解決する力をヒューマンスキルのひとつとして挙げている理由も、ここにあるのです。

 

※ 問題解決において視野の広さが大切なことは、ワインバーグ先生から教わりました。おかげで、何度も窮地から救われたものです。

 

問題の解決策を見つける

別所温泉

別所温泉

別所温泉 石湯

別所温泉 石湯

 

信州上田駅から上田電鉄別所線で30分程のところに別所温泉があります。別所温泉の外湯には、木曽義仲ゆかりの「大湯」、円仁慈覚大師が入ったと伝わる「大師湯」、そして「石湯」があります。「石湯」は、池波正太郎氏の「真田太平記」に、真田幸村(信繁)と忍びの者お江が出会う隠し湯として描かれています。以前は、文字通り岩の割れ目からお湯が沸き出ていたそうです。

 

前回は、問題の真因を見つけることについてお話ししました。問題の根本的な原因、すなわち真因を見つけ出すことは、問題を解決する上で大切な知恵の出し所です。問題毎にその真因は様々ですが、愚直に「なぜ」を繰り返して問題の原因を深堀することで、真因にたどり着くことができるのです。そこで今回は、問題の真因を解決策に結びつけるポイントについてお話ししてみたいと思います。

問題の真因を見つけ出すことができれば、多くの問題は解決することができます。問題を解決することは問題の真因を取り除くことですから、問題の真因が分かれば、問題の解決策や再発防止策は容易に見つけられると思います。見つかった解決策は、実際に行う前に、次の様な確認を行ってみると良いでしょう。

まず、この解決策によって、当初の問題は根本的に解決できるのか確認します。もし、問題が解決できそうになければ、真因が違っているのか、あるいはまだ別の真因が隠れているのかもしれません。原因分析に戻って再検討してみましょう。

次に、解決策は実際に行うことが可能か、その実現可能性について確認してみましょう。どんなに理想的な解決策であっても、実際に行うことが難しければ、絵に描いた餅になりかねません。あくまでも、現実的な解決策を見つけることが大切なのです。もちろん、問題を解決するのですから、多少の困難やチャレンジは良しとしましょう。

これらの確認を行うことで、解決策の誤りや見落としに気づくことができますし、より効果的な解決策を見つけることができるのです。

 

ビジネスの現場や私たちのまわりで起きる問題には、もっと複雑なものもあります。解決策を行うことで新しい問題を引き起こしてしまうことや、別の問題の解決を邪魔してしまうこともあります。また、もともと潜んでいた利害対立に火をつけてしまうかもしれません。そのために、問題解決の努力が思いがけない反発に遭ってしまうこともあります。苦労してたどり着いた解決策であればある程、その解決策に固執してしまい、かえって問題をこじらせることにもなりかねません。

では、この様なことを防ぐためにはどうしたら良いのでしょうか。こうした事態は、解決策の持つ副作用を想定していなかったか、想定していても、その副作用を過小評価していたことに起因しているのかもしれません。ですから、解決策を見つける際に、その副作用について検証しておくことはとても大切なことなのです。もし副作用があると分かれば、もちろん、副作用が無いか少ない解決策を探すことになるのですが、どうしても副作用が避けられないこともあるでしょう。そのような場合には、副作用を打ち消すための方策や、反対意見を説得するための方法について検討することが必要になるかもしれません。

また、あらかじめ問題を把握する際に、その問題に潜在的な利害対立が存在していないか吟味しておくことも大切です。利害が絡んだ問題を解決することには、大変な困難が伴うものです。特に問題の当事者が聞く耳を持たず自分の主張を言い張るだけとなると、知恵やアイディアではとても解決できません。然るべき専門家に相談する必要があるのかもしれません。

私は、どんな問題であっても、それらを解決することは、最後は人の問題に帰結すると思っています。例えそれが技術的な問題でもそうですし、専門家の助けが必要な場合でも同じことが言えると思います。どんな解決策でも、その影響を受ける人達に大なり小なり変化を求めるものです。問題に関係する人達が、解決策がもたらす新しい価値観や環境などに順応できて始めて、問題は解決できると思うのです。

一方で、人は変化を望まないものです。頭では分かっていても、無意識に現状を維持しようとしてしまいます。せっかくの解決策を絵に描いた餅にしないためにも、人の心に変化の種を撒くことも、問題を解決するためのまたひとつの知恵の出し所なのかもしれません。

 

※円仁慈覚(えんにんじかく)大師

比叡山延暦寺の第三代座主。最後の遣唐使として唐に渡る。北向き観音堂建立のため、当地を来訪された。

 

どんな問題にも必ず原因がある

真田丸大河ドラマ館

真田丸大河ドラマ館

上田城の石垣

上田城の石垣

 

3月に入り、信州上田も一気に春らしくなってきました。上田城に隣接して、この1月にオープンした真田丸大河ドラマ館の来場者も、既に6万人を超えたそうです。上田城の南側、今は駐車場や遊歩道になっていますが、真田氏が活躍した頃は、ここを千曲川が流れていたとのこと。石垣を見上げると、当時の上田城の堅牢さが偲ばれます。

前回は、問題解決では、まず発生している事象から、問題の全体像を正しく理解することが大切なことをお話ししました。そこで今回は、問題の原因を究明することについてお話ししてみたいと思います。

問題について理解を深めるためには、二つのアプローチがあります。一つは、前回お話しした発生した事象から問題を理解すること、もう一つが、今回取り上げる問題の原因を理解することです。これらのアプローチを使い分けることで、問題の本質的な原因(問題の真因)に迫ることができるのです。ところが、実際の問題解決においては、これらのアプローチを混同してしまうことが多いものです。それでは問題の本質に迫ることは難しくなってしまいます。また、問題の発生事象は目に見えますが、原因となると目で見ることは難しいものです。ですから、問題の原因を見つけるためには、ものごとを論理的に考え、想像する力が求められるのです。

問題の原因を見つける手法としては、「なぜなぜ分析」が有名です。もともとは、トヨタで「5なぜ」として始まったもので、5回「なぜ」を繰り返して原因を深堀し、問題の真因を見つけようというものです。今では、回数にはとらわれないで、真因にたどり着くまで原因の深堀を行います。原因らしいものを見つけると、それらを原因と勘違いしてしまい、結果的に、根本的な原因が見つからないことがあります。そんな「問題解決のワナ」がいたるところにあるのです。そこで、さらに「なぜ」を繰り返して原因の深堀を行い、問題の真因を見つけ出そうというのです。

「なぜなぜ分析」については、小倉 仁志氏が書かれた「なぜなぜ分析10則」に詳しく解説されていますので、興味がおありの方には一読されることをお勧めします。

ある所までは「なぜなぜ分析」で原因を深堀できても、なかなか真因までたどり着けないことがあります。そんなときは、「仮説検証」を用いてみると良いでしょう。真因と思われるものについて、「原因はAである」と仮説を立て、その仮説にもとづいて解決策を作るのです。そして、解決策の効果を確認することで、その仮説が正しいか検証を行います。もちろん仮説ですから、違っているかもしれません。その場合には、また新しい仮説を立てるのです。こうした仮説と検証のプロセスを繰り返すことで、問題の真因を見つけるのです。また、「なぜなぜ分析」を行うまでもなく、原因が想定できることもあるでしょう。そんな時には、最初から「仮説検証」を用いても良いと思います。

この様に、問題の真因を見つけるためには、試行錯誤を行うことが必要になるものです。実際の問題解決は、山あり谷ありで、始めから正解がある問題を解くような訳にはいきません。うまい試行錯誤のやり方を身に付ける、このことも、問題解決力を高めるためには大切なことかもしれません。問題には必ず真因があります。どんなに小さな問題でも、大きな問題でもそうです。実際に問題解決に取り組み経験を重ねることで、効果的な試行錯誤のやり方や思慮深さ、そしてどちらに向かえば本質的な原因に迫れるのか、といった方向感覚を身に付けることができると思うのです。そのことが、どんなに困難な問題に立ち向かう時にも、「考えるだけ正解に近づく」という自信を与えてくれるのではないでしょうか。

 

以下の文献を参考にさせていただきました。

「なぜなぜ分析10則-真の論理力を鍛える-」

小倉 仁志 著   (日科技連) 2009

 

なぜ問題を見誤るのか?

雪景色の塩田平

雪景色の塩田平

雪景色と別所線

雪景色と別所線

 

先日の全国的な寒波で、上田も一面の雪景色です。暖冬だっただけに、真冬の寒さが身に沁みます。雪景色の中を走る別所線。元気をもらえるようです。

私たちの身のまわりで起こる様々な問題。多くの方が、そうした問題を解決できたら、と思っていらっしゃるのではないでしょうか。そこで、今回から問題解決力を高めるヒントについてお話ししてみたいと思います。初回は、問題を見誤らないためのヒントです。

問題を解決することは決して容易なことではありません。以前、「気づきのヒント」でもお話ししましたが、問題解決は最初が肝心なのです。まず、問題から目を背けないで、問題の正体を見極ることが大切です。問題の正体を理解することで、問題は解決への道を進み始めるのです。ところが、その第一歩で躓いて、解決すべき問題を見誤ってしまうことがあります。それでは、どんなに頑張っても問題を解決することはできません。問題を正しく理解することは、一見出来ているようで、実はあまり出来ていないものです。では、どうして問題を見誤ってしまうのでしょうか。

まず第一に、解決すべき問題をよく理解しようとしないで、解決を急いでしまうことがあげられます。問題の原因を探そうとするのはまだ良い方で、往々にして犯人探しに躍起になったり、問題の解決策だけを求めてしまうのです。これでは問題を理解することができないばかりか、問題を見失うことにもなりかねません。職場の上長やお客様から問題解決を急かされていることもあるのでしょうが、そうでなくても、私たちは、問題を解決しようとするとつい急ぎ足になってしまうものです。無意識に問題を避けようとしているのかもしれません。そんなこともあって、問題自体を明らかにすることを疎かにしてしまうのです。

二番目は、予断や思い込みなどのによって、問題をすり替えてしまうことです。どうせ・・・に決まってる、多分・・・だろう、といった具合です。誰にでも多かれ少なかれ先入観や思い込みがあるものです。そんな普段あまり意識していない感情が、問題を正しく理解することを邪魔するのです。そうした感情に流されないで、あくまでも客観的に問題を捉えることが大切です。また、日頃から広い視野を持つことやものごとに囚われない心を育てることも、問題を素直に見ることを促してくれます。

第三に、問題の一部を見て、それを問題の全てと思い込んでしまうことがあげられます。私は、これを「氷山の一角効果」と呼んでいます。氷山は、海上に出ているのは全体の10%で、大半は海の中にあるのだそうです。問題も同様で、目に見えているのはほんの一部だと思った方が良いでしょう。また、実際の場面では、問題についての情報は限られたものしか手に入らないものです。ですから、限られた情報から問題の全体像に迫ることが求められるのです。そのため、あなたのコミュニケーション力や想像力の助けが必要になります。問題は多面性を持っていますから、見る人によって捉え方が違ってきます。ですから、問題の全体像を理解することがとても大切になるです。問題解決とコミュニケーションや想像力などの考える力については、また改めてお話ししたいと思います。

問題自体をよく見ていくと、いくつかの問題が絡み合っていることがあります。その様な場合には、ひとつひとつの問題を解きほぐすことも必要になります。問題はひとつとは限らないのです。また、問題の原因を探しているうちに、実は問題自体が十分理解でていないことに気がつくこともあります。そんな時は、迷わず問題自体を正しく理解することに立ち返ることをお勧めします。原因の究明はその後で良いのです。

問題の正体を理解しようとする過程には、様々な気づきや発見があるものです。これらの気づきや発見も、私たちに問題を解決するための糸口を教えているのです。

次回は、問題の原因を見つけるヒントについてお話ししたいと思います。

 

※気づきのヒント   「問題解決の心」 2015/11/24