信州上田では、今、桜が満開です。急に冬の寒さが戻ったりもしましたが、信州国際音楽村では、満開のスイセンと桜のコラボレーションを楽しむことができました。
前回のコラムでは、知恵を生み出すためには、人の要素や人間的側面が重要な役割を担っていることをお話ししました。これらは、ヒューマンスキルとして、ロバート・カッツのスキルモデルにも位置づけられているものですが、そのイメージはもうひとつはっきりしていないようです。ヒューマンスキルが大切なことは分かっていても、それは持って生まれたものなのか、努力によって伸ばすことができるのか、伸ばせるとしたら、どうしたら伸ばすことができるのか、分かっているようで分かっていないのが本当のところではないでしょうか。そこで、今回のコラムでは、前回に続いてヒューマンスキルについてお話ししてみたいと思います。
私は、ヒューマンスキルは伸ばすことができるもので、誰でもそのタネを持っていると思っています。そのタネを上手に育てて、大きな実を実らせている人もたくさんいるのですが、その一方で、せっかく持っているタネをうまく育てられない人や、タネを持っていることに気づいていない人がいることもまた事実なのです。
では、どうしたらヒューマンスキルを伸ばし、知恵を生み出すことができるようになるのでしょうか。知恵を出すためには、考える力、思考プロセスを鍛えることが大切であると、以前お話ししました。私は、ヒューマンスキルの中心に思考力、考える力があると思っています。考えることは、その人の人間的な側面と深く関わっているものですし、ものごとを深く考えるためには、感情などの様々な影響をコントロールする必要があります。そうしたことから、思考力や考える力をヒューマンスキルの大切な要素として位置付けています。そして、思考力のまわりに5つのスキルを定義しています。これらのスキルもまた、人間的な要素と深く関わっており、いずれもビジネスパーソンにとって欠くことのできないものです。いくら考える力や思考プロセスを鍛えることが大切だと分かっていても、何を考えたらよいのか、どこで知恵を出したらよいのかが分からなければ、前に進むことはできません。これらの5つのスキルを開発することによって、知恵を出すためには何を考えたら良いのか、知恵の出しどころが分かり、考える力が触発されるのです。
私が挙げる5つのスキルを以下に示します。
成長力・・・成功や失敗した経験からものごとを学ぶとともに、自分に足りていないものを知り、必要な知識やスキルを身に付ける力。自己成長のためのエンジン。
コミュニケーション力・・・相手の考えや思いを傾聴し、理解する力。自分の考えや思いを相手に分かり易く伝え、表現し、相手の理解を促す力。
計画力・・・ものごとを計画的に進める力。目指すべき目標を定め、関係するメンバーと共に、その実現を目指す力。想定外の事象が発生した場合にも、柔軟に対応する。
問題解決力・・・問題自体を正しく把握し、その原因を見極めて問題解決を図る力。また、問題の解決に欠かすことのできない、関係者の合意形成を促進する力。
育成力・・・自分が与えている影響力に気づき、コントロールすることによって、他者の成長を促進する力。個人や組織の学習効果を最大化する力。
これらの5つのスキルを高めるためには、最低限の知識が必要になります。いわば、実践のための知識とでも言えるものです。そうした知識は、言われてみれば当たり前ということが多く、決して難しいものではありません。どちらかと言うと、私たちが日頃思っていることに近いものです。大切なのは、そうした、言われてみれば当たり前のことを実際に行うことができるかどうかなのです。また、これらのスキルはお互いに関連を持ち、それぞれがお互いを強め合うものです。ですから、いずれかのスキルを磨いていけば、他のスキルを獲得することも容易になるのです。職業や立場によって必要とされるスキルも違ってきますから、まずは自分が得意なものや必要なものから身に付けていけば良いと思います。
一見すると、コンセプチュアルなスキルと考えられている問題解決力や計画力をヒューマンスキルの範疇に置くことに違和感を持つ方もいらっしゃるかもしれません。ですが、問題解決やものごとを計画的に進めることを難しくしている要因の多くが、実は人間的なものであることを考えると、これらをヒューマンスキルの範疇に置くことも一理あるのではないでしょうか。考えるというと、頭で考えるものと思いがちですが、一方で、心で思うこと、思索することもあるのです。ヒューマンスキルは、そうした心の営みを、頭で考えることにつなげるためのスキルといえるのかもしれません。スキル開発が知識やテクニックに走り、ややもすると、人の心を動かせない「スキル倒れ」に陥ってしまうことを考えると、やはりスキルはヒューマンな世界に根ざす必要があると思うのです。