今回は、G.M.ワインバーグ(以下、敬意を込めてワインバーグ先生と呼ばせていただきます)についてお話ししたいと思います。
ワインバーグ先生は、ソフトウェア開発の黎明期から現在にいたるまで、技術分野におけるリーダーシップのあり方や、問題発見・問題解決等について、多くの著作を世に出しています。先生の著作には有名なものが数多くありますので、読まれた方もいらっしゃることでしょう。ワインバーグ先生は、もともとIBMでソフトウェアの開発を行っており、NASAのマーキュリー計画にも参加しています。その後、コンサルタントとして独立し、企業へのコンサルティングやワークショップなどを行っています。
私がソフトウェアの世界に飛び込んだ頃は、ソフトウェア開発に関連する本はほとんど無く、みんな手探りで格闘していたものです。コンピュータやソフトウェアに関連する情報があふれている今とは大違いです。私がワインバーグ先生を知ったきっかけは、コンピュータ雑誌「bit」に連載されていた「イーグル村通信」というコラムです。そこで、ワインバーグ先生の鋭い警句とユーモアあふれる文章にすっかり魅了されてしまったというわけです。
仕事を覚え、まわりが見え始めたころ、トラブルに陥ったプロジェクトの再建を担当することが多くなりました。日々、次々に発生する問題や迫りくる納期と格闘する中で、チームリーダーとしての力不足を感じ、自信を持てないでいたものです。そんな中で、ワインバーグ先生の著書「スーパーエンジニアへの道」と巡り合いましたが、そこには、リーダーの役割や心構え、効果的なチーム運営など、私の現実の悩みや疑問に気づきやヒントを与えてくれる温かい言葉があふれていました。
ワインバーグ先生は、リーダーシップをプロセスとして捉えています。そして、そのプロセスとは、「人々に力を与えるような環境を作り出すプロセス」であり、そして、「人は力を与えられると、自由に見、聞き、感じ、発言するようになる」のです。まさに、人を生かすこと、それがリーダーシップだというのです。また、プロセスであるということは、継続的に進化することを意味します。初めは小さな芽でも、経験から学び、大きく、望ましい形へと育てていくことができるのです。もちろん、経験のなかで、失敗することもあるでしょう。でも、失敗も大切な経験ですから、心がけ次第で失敗からもたくさんのことを学ぶことができるのです。
リーダーシップというと、とかく生まれつき身に付いているものであるとか、ヒーローとリーダーシップを結び付けて考えがちですが、このような議論は、表面的な見方にもとづいたものと言えるのかもしれません。
また、ワインバーグ先生は、リーダーにとってアィデアが大切であることも指摘しています。リーダーシップのMOIモデルといわれるものです。このモデルで、ワインバーグ先生はリーダーをリーダーたらしめる要素として、以下の三つを挙げていますが、その中に、アイディア、イノベーションが含まれています。
M・・・動機づけ(Motivation)
関係する人を突き動かす何ものか
O・・・組織化(Organization)
アイディアを実際に実現することを可能にする、既存の構造
I・・・アイディア(Idea)ないし技術革新(Innovation)
タネ、実現されるもののイメージ
実際に、解決を迫られている問題に立ち向かう時、リーダーを助けるのはアイディア、解決策のタネなのです。このタネを示すことで、メンバーの知恵が集まり、問題は解決へと向かいはじめるのです。今日のように、変化が常態化し、常に変わることを求められるようになると、アイディアは技術の世界だけでなく、全てのリーダーが持つべきものといえるのかもしれません。
次回は、今回に引き続いてワインバーグ先生が語る問題発見・問題解決についてお話したいと思います。
以下の文献を参考にさせていただきました。
「スーパーエンジニアへの道-技術リーダーシップの人間学-」
G・M・ワインバーグ 著 木村 泉 訳 (共立出版) 1991
※「bit」は共立出版のコンピュータサイエンス誌で、現在は休刊している。
Thanks, it is very informative