信州の厳しい冬もようやく終わりが見え、日差しのぬくもりに春の訪れを感じます。今年の寒さは例年になく厳しかったためか、春の訪れが待ち遠しく思われる今日この頃です。
このところ、「働き方改革」について、様々な議論が行われています。長時間残業や過労死といった不幸なできごとがそのきっかけなのですが、一方で、その背景には日本の労働生産性の低さもあるようです。そこで、今回と次回の2回にわたって、この「働き方改革」について考えてみたいと思います。
OECD(経済協力開発機構)のデータによると、日本の時間当たりの労働生産性はOECD加盟35カ国中20位で、主要先進7カ国では最下位になっています。また、かつては世界一を誇った製造業の労働生産性(就業者一人当たり)も、主要29カ国中14位とずいぶん様変わりしています。*1
一方、米国の調査会社ギャロップが行った、各国の企業を対象にした従業員の意識調査によると、日本では「熱意あふれる社員」は6%、「やる気のない社員」は70%で、調査した139カ国中132位になっています。ちなみに、米国では、「熱意あふれる社員」は32%、日本の5倍強です。*2かつて、勤勉で会社への帰属意識が強いと言われていたのが嘘の様です。こうした働く意識の変化も、先にお話しした労働生産性に影響を与えているのかもしれません。
何が働く人のやる気を削いでしまったのか、その理由は様々なのでしょうが、かつては、日本的経営が世界の手本になった時代もありました。その頃は何事も右肩あがりで、将来への希望や期待が感じられたものです。その後、バブル崩壊や平成の長いデフレを経て今に至るのですが、そんな時代の変化も、社員の意識を変える一因になっているのかもしれません。
また、この間に、労働の姿も様変わりしました。かつて、国内の安価な労働力に支えられた工場の多くは、安価な労働力を求めてアジア諸国へと移っていき、国内には設計や企画部門などが残りました。作れば作るだけ売れた時代は過去の話。売るためは商品に付加価値を付けたり、独創的な商品を開発したりと様々な知恵を出すことが欠かせなくなっています。そのために、労働の主体が労働集約型から、知識労働へと変化しているのです。もちろん、折からの情報化やデジタル革命の進展なども、こうした変化に一層拍車をかけています。
かつて、世界の手本になった日本的経営、それはあくまでも「モノづくり」のマネジメントです。「上意下達の指示」、「長時間の労働(を美徳とする文化)」や「年功序列による昇進」など、「受身的なまじめさ」を持った日本人のメンタリティには合っていたのかもしれません。ところが、あまりにも成功体験が強かったせいか、今でもそうした管理スタイルが少なくありません。そうした「過去の成功モデル」が、知識労働や今の働く人の意識とミスマッチを起こしているように思うのです。
今や、知識労働にふさわしいマネジメントが求められているのです。かつて、米国も長年苦しんできましたが、マネジャーの意識の変化がその再生に役立ったと言われています。マネジャーが部下といっしょに成果を出すこと、部下の成長を支援することで、「熱意あふれる社員」が増え、生産性も上がったのです。マネジャーの意識が変わったことが大きかったのでしょう。ところが、日本においては、未だ知識労働のマネジメントに舵を切れていないのが現状ではないでしょうか。
労働も「量」ではなくて「質」が問われる時代です。生産性向上を単に「時間やコストの削減」と捉えていては問題は解決しません。知識労働では、知恵を生み出すことが求められます。どうしたら知恵を、そして顧客の望む価値を効率良く生み出すことができるのかが問われているのです。そのために、マネジャーやリーダーの役割はどうあるべきか、また、働く人はどの様に仕事と取り組んだら良いのか、これからの時代の新しいワークスタイルを創出することもまた、「働き方改革」の大切なテーマであると思うのです。そのことを職場のマネジャーやリーダー、そして働く人が考える良い機会なのではないでしょうか。
*1 「労働生産性の国際比較 2017年版」 日本生産性本部
*2 「熱意ある社員 6%のみ 日本132位、米ギャラップ調査」 2017/5/26 日本経済新聞 電子版