「人間ファースト」の時代

新しい年、2019年が始まりました。今年は「平成」が終わり、新しい元号がスタートします。本年が良い年であること、そして来たるべき時代が、良い時代であることを願わずにはいられません。

目を世界に転じると、米中貿易摩擦が激しさを増し、世界経済の減速懸念から、昨年末には株価も大きく下がりました。また、米国や欧州での自国第一主義、ポピュリズムの台頭やイギリスのEU離脱問題など、世界的に不確実性が高まっています。

米中貿易摩擦は貿易戦争とも呼ばれていますが、中国は経済問題に止まらず、さらにはハイテク分野においても米国と世界の覇権を争うようになりました。中国の台頭については以前から言われていましたが、AIや5Gなどに注力する「製造2025」や宇宙強国などの国家戦略もあり、ハイテク分野でも驚くほどのスピードで米国を脅かす存在になっているようです。ですから、米国は安全保障に係る中国のハイテク分野での覇権を許すことはないと思います。言うまでもなく、市場経済、経済のグローバル化は米国が先頭になって進めてきたものですが、世界の工場、そして巨大なマーケットでもある中国は、そのグローバル化を追い風に発展を遂げ、一方で、その米国が保護主義、自国第一主義へと変質したことは皮肉な現実です。

中国の産軍共同体制は、米国を手本にしたものと言われています。米国のIT産業、ハイテク産業の発展は、DOD(国防総省)やNASAの存在が大きく関わってきました。そうした米国の産軍連携システムは、ハイテク強国へと急ぐ中国の恰好の手本になったのかもしれません。米国のIT産業やGAFA※1などが自然発生したベンチャー企業であるのに対して、中国ではハイテク産業と国家戦略との結びつきを強く感じざるを得ません。そのことが、知的財産権の侵害や技術移転の強要などもあって、中国のハイテク技術に対する不信感に拍車をかけているのでしょう。

ここに来て、中国経済の変調が報道されています。米中貿易摩擦以前から、株式担保融資(EPF)※2などの過剰債務問題や民営企業のビジネスマインドの悪化などが指摘されていましたが、さらに米国の経済制裁が追い打ちをかけているのです。いずれにしても、米中対立は予断を許さない状況がしばらく続くでしょう。一方、経済のグローバル化によって、米中をはじめとする各国の結びつきは複雑で強いものになっています。ですから、一度グローバル化に向かった経済を保護主義に戻そうとすることは、時計の針を逆に回すようなもので、世界経済にもたらす影響は計り知れません。中国は勿論ですが、米国自身もその影響と無縁ではいられないはずです。

現在、日本においては少子高齢化が大きな問題となっていますが、中国においても出生率が伸びていません。「一人っ子政策」が終わったにもかかわらずです。このままいくと、遠からず中国でも少子高齢化が大きな問題になり、今の勢いにも陰りが見えてくるのかもしれません。その時は、少子高齢化のフロントランナーである日本の知見を活かす機会が生まれることでしょう。

2019年、世界では私たちの想像を超えるような事が起きるでしょう。長く続いた米国一強体制から、中国や欧州、ロシアなどを含めた多極化という新しい国際秩序を模索する転換期であるのかもしれません。また、朝鮮半島でのパワーバランスにも変化の兆しが見えています。こうした国際情勢の変化、特に中国経済の変調は、日本経済に、そして地方の経済にも影響を与え始めています。変化の時代は、ピンチであると同時にチャンスでもあります。足元では、IOTやAIなどの新しいテクノロジーが多くのチャンスを生み出しています。今の時代こそ、目先の事象だけに眼を奪われず、チャンスを生かし知恵を生み出す人間力が求められていると思うのです。人間の可能性が新しい時代を切り開くのです。複雑な国際問題も、最後には人間の力がものを言うのかもしれません。「人間ファースト」こそ、その合言葉にふさわしいのではないでしょうか。

 

※1 GAFA・・・グーグル(Google)、アップル(Apple)、フェースブック(Facebook)、アマゾン(Amazon)の4社のこと。

※2 株式担保融資(EPF)・・・証券会社や銀行が企業の株式を担保に行う融資。国際決算銀行(BIS)によれば、中国のEPFは2018年10月末で6.3兆元(約101兆円)。

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