問題解決の窓

 このページは、「気づきのヒント」に掲載されたコラムのうち、問題解決(問題や課題を解決する力)に関するものをまとめたものです。

 自分に、もう少し問題を解決する力があれば・・・と思うことはありませんか?確かに、問題を解決することは簡単ではありません。でも、問題を解決するためのヒントは、私達の身の回りにさりげなくあるものかもしれません。ちょっとしたきっかけで、解決のヒントや新しい選択肢を見つけることができるのです。

  続 問題解決の心

  問題の解決策を見つける

  どんな問題にも必ず原因がある

  なぜ問題を見誤るのか?

  問題解決の心

  問題解決事始め

続 問題解決の心



前回まで、問題を解決するための知恵の出し所や、その際に陥り易い落とし穴などについて、お話をしてきました。今回は、そのひと区切りとして、問題解決力を高めるための心がけについてお話ししてみたいと思います。

問題解決というと、専門家や一部の人が行うものと思われがちですが、程度の差はあるものの、実は誰もが避けて通れないものなのかもしれません。社会の変化や価値観の多様化などによって、ビジネスの現場や私たちの身の回りで起きる問題が複雑で難解になっている今日では、なおのことです。もちろん、専門家の助けが無ければ解決できない問題があることは確かですが、その場合でも、問題の当事者が問題自体を正しく見定めることができれば、専門家の支援などもずいぶん受けやすくなりますし、問題もより良い形で解決することができると思うのです。

問題を解決することは決して簡単なことではありませんが、前回までお話ししたステップをひとつひとつ確実に行っていけば、問題の解決策に近づくこと、見出すことができるものです。例えどんなに困難に思える問題だとしでも、あきらめずに考え抜くことで、解決の糸口が見つかるはずです。

ところが、人は自分に見えている世界の中で問題を解決しようとするものです。ですから、いくら考えても、問題の真因や解決策が自分の視野の中に入ってこないと、なかなか問題を解決することはできません。問題を解決するためには、素直にそして広い視野で問題と向き合い、新しい視点や発見を受入れることが求められます。そのためには、従来の自分の考えや思い込みを疑ってみることも必要なのかもしれません。日頃、自分の視野について意識することはあまりないものですが、何か問題が起こって、いざ解決しようとすると、自分の視野や自分を束縛している固定観念などに気づかされるものです。逆に言えば、問題解決に取り組むことで、自分に見えている世界を知り、自分の視野の限界に気づくことができるのです。

また、実際に問題を解決する場面では、緊張やストレスが伴うものです。そのような状況では、普段よりもさらに視野が狭くなってしまい、いつもは見えるものも見えなくなったり、冷静な判断が行えなくなります。自動車を運転している時に、スピードを増すと視野が狭くなりますが、それと同じことが問題解決においても起きるのです。日頃から、より広い視野でものごとを考え、どんな時にも平常心でいられることも、問題解決力を向上させるためには大切なのです。

問題解決では、ものごとを論理的に考える力はもちろん必要なのですが、それだけで十分とは言えません。その人が身に付けている視野の広さや、新しい発見や気づきを受入れる心の柔軟さがものをいうのです。また、あきらめずに考え抜くこと、前向きで建設的な心を失わないことも大切です。そして、これらのひとつひとつが、私たちの成長や人間形成にも繋がっているのです。私が問題を解決する力をヒューマンスキルのひとつとして挙げている理由も、ここにあるのです。

※ 問題解決において視野の広さが大切なことは、ワインバーグ先生から教わりました。おかげで、何度も窮地から救われたものです。
                                    (2016年4月掲載)


問題の解決策を見つける



前回は、問題の真因を見つけることについてお話ししました。問題の根本的な原因、すなわち真因を見つけ出すことは、問題を解決する上で大切な知恵の出し所です。問題毎にその真因は様々ですが、愚直に「なぜ」を繰り返して問題の原因を深堀することで、真因にたどり着くことができるのです。そこで今回は、問題の真因を解決策に結びつけるポイントについてお話ししてみたいと思います。

問題の真因を見つけ出すことができれば、多くの問題は解決することができます。問題を解決することは問題の真因を取り除くことですから、問題の真因が分かれば、問題の解決策や再発防止策は容易に見つけられると思います。見つかった解決策は、実際に行う前に、次の様な確認を行ってみると良いでしょう。

まず、この解決策によって、当初の問題は根本的に解決できるのか確認します。もし、問題が解決できそうになければ、真因が違っているのか、あるいはまだ別の真因が隠れているのかもしれません。原因分析に戻って再検討してみましょう。

次に、解決策は実際に行うことが可能か、その実現可能性について確認してみましょう。どんなに理想的な解決策であっても、実際に行うことが難しければ、絵に描いた餅になりかねません。あくまでも、現実的な解決策を見つけることが大切なのです。もちろん、問題を解決するのですから、多少の困難やチャレンジは良しとしましょう。

これらの確認を行うことで、解決策の誤りや見落としに気づくことができますし、より効果的な解決策を見つけることができるのです。

ビジネスの現場や私たちのまわりで起きる問題には、もっと複雑なものもあります。解決策を行うことで新しい問題を引き起こしてしまうことや、別の問題の解決を邪魔してしまうこともあります。また、もともと潜んでいた利害対立に火をつけてしまうかもしれません。そのために、問題解決の努力が思いがけない反発に遭ってしまうこともあります。苦労してたどり着いた解決策であればある程、その解決策に固執してしまい、かえって問題をこじらせることにもなりかねません。

では、この様なことを防ぐためにはどうしたら良いのでしょうか。こうした事態は、解決策の持つ副作用を想定していなかったか、想定していても、その副作用を過小評価していたことに起因しているのかもしれません。ですから、解決策を見つける際に、その副作用について検証しておくことはとても大切なことなのです。もし副作用があると分かれば、もちろん、副作用が無いか少ない解決策を探すことになるのですが、どうしても副作用が避けられないこともあるでしょう。そのような場合には、副作用を打ち消すための方策や、反対意見を説得するための方法について検討することが必要になるかもしれません。

また、あらかじめ問題を把握する際に、その問題に潜在的な利害対立が存在していないか吟味しておくことも大切です。利害が絡んだ問題を解決することには、大変な困難が伴うものです。特に問題の当事者が聞く耳を持たず自分の主張を言い張るだけとなると、知恵やアイディアではとても解決できません。然るべき専門家に相談する必要があるのかもしれません。

私は、どんな問題であっても、それらを解決することは、最後は人の問題に帰結すると思っています。例えそれが技術的な問題でもそうですし、専門家の助けが必要な場合でも同じことが言えると思います。どんな解決策でも、その影響を受ける人達に大なり小なり変化を求めるものです。問題に関係する人達が、解決策がもたらす新しい価値観や環境などに順応できて始めて、問題は解決できると思うのです。

一方で、人は変化を望まないものです。頭では分かっていても、無意識に現状を維持しようとしてしまいます。せっかくの解決策を絵に描いた餅にしないためにも、人の心に変化の種を撒くことも、問題を解決するためのまたひとつの知恵の出し所なのかもしれません。
                                     (2016年3月掲載)

どんな問題にも必ず原因がある



前回は、問題解決では、まず発生している事象から、問題の全体像を正しく理解することが大切なことをお話ししました。そこで今回は、問題の原因を究明することについてお話ししてみたいと思います。

問題について理解を深めるためには、二つのアプローチがあります。一つは、前回お話しした発生した事象から問題を理解すること、もう一つが、今回取り上げる問題の原因を理解することです。これらのアプローチを使い分けることで、問題の本質的な原因(問題の真因)に迫ることができるのです。ところが、実際の問題解決においては、これらのアプローチを混同してしまうことが多いものです。それでは問題の本質に迫ることは難しくなってしまいます。また、問題の発生事象は目に見えますが、原因となると目で見ることは難しいものです。ですから、問題の原因を見つけるためには、ものごとを論理的に考え、想像する力が求められるのです。

問題の原因を見つける手法としては、「なぜなぜ分析」が有名です。もともとは、トヨタで「5なぜ」として始まったもので、5回「なぜ」を繰り返して原因を深堀し、問題の真因を見つけようというものです。今では、回数にはとらわれないで、真因にたどり着くまで原因の深堀を行います。原因らしいものを見つけると、それらを原因と勘違いしてしまい、結果的に、根本的な原因が見つからないことがあります。そんな「問題解決のワナ」がいたるところにあるのです。そこで、さらに「なぜ」を繰り返して原因の深堀を行い、問題の真因を見つけ出そうというのです。

「なぜなぜ分析」については、小倉 仁志氏の「なぜなぜ分析10則」に詳しく解説されていますので、興味がおありの方には一読されることをお勧めします。

ある所までは「なぜなぜ分析」で原因を深堀できても、なかなか真因までたどり着けないことがあります。そんなときは、「仮説検証」を用いてみると良いでしょう。真因と思われるものについて、「原因はAである」と仮説を立て、その仮説にもとづいて解決策を作るのです。そして、解決策の効果を確認することで、その仮説が正しいか検証を行います。もちろん仮説ですから、違っているかもしれません。その場合には、また新しい仮説を立てるのです。こうした仮説と検証のプロセスを繰り返すことで、問題の真因を見つけるのです。また、「なぜなぜ分析」を行うまでもなく、原因が想定できることもあるでしょう。そんな時には、最初から「仮説検証」を用いても良いと思います。

この様に、問題の真因を見つけるためには、試行錯誤を行うことが必要になります。実際の問題解決は、山あり谷ありで、始めから正解がある問題を解くような訳にはいきません。うまい試行錯誤のやり方を身に付ける、このことも、問題解決力を高めるためには大切なことかもしれません。問題には必ず真因があります。どんなに小さな問題でも、大きな問題でもそうです。実際に問題解決に取り組み経験を重ねることで、効果的な試行錯誤のやり方や思慮深さ、そしてどちらに向かえば本質的な原因に迫れるのか、といった方向感覚を身に付けることができると思うのです。そのことが、どんなに困難な問題に立ち向かう時にも、「考えるだけ正解に近づく」という自信を与えてくれるのではないでしょうか。

以下の文献を参考にさせていただきました。
「なぜなぜ分析10則-真の論理力を鍛える-」  小倉 仁志 著   (日科技連) 2009

                                    (2016年3月掲載)

なぜ問題を見誤るのか?



私たちの身のまわりで起こる様々な問題。多くの方が、そうした問題を解決できたら、と思っていらっしゃるのではないでしょうか。そこで、今回から問題解決力を高めるヒントについてお話ししてみたいと思います。初回は、問題を見誤らないためのヒントです。

問題を解決することは決して容易なことではありません。以前、「気づきのヒント」でもお話ししましたが、問題解決は最初が肝心なのです。まず、問題から目を背けないで、問題の正体を見極ることが大切です。問題の正体を理解することで、問題は解決への道を進み始めるのです。ところが、その第一歩で躓いて、解決すべき問題を見誤ってしまうことがあります。それでは、どんなに頑張っても問題を解決することはできません。問題を正しく理解することは、一見出来ているようで、実はあまり出来ていないものです。では、どうして問題を見誤ってしまうのでしょうか。

まず第一に、解決すべき問題をよく理解しようとしないで、解決を急いでしまうことがあげられます。問題の原因を探そうとするのはまだ良い方で、往々にして犯人探しに躍起になったり、問題の解決策だけを求めてしまうのです。これでは問題を理解することができないばかりか、問題を見失うことにもなりかねません。職場の上長やお客様から問題解決を急かされていることもあるのでしょうが、そうでなくても、私たちは、問題を解決しようとするとつい急ぎ足になってしまうものです。無意識に問題を避けようとしているのかもしれません。そんなこともあって、問題自体を明らかにすることを疎かにしてしまうのです。

二番目は、予断や思い込みなどのによって、問題をすり替えてしまうことです。どうせ・・・に決まってる、多分・・・だろう、といった具合です。誰にでも多かれ少なかれ先入観や思い込みがあるものです。そんな普段あまり意識していない感情が、問題を正しく理解することを邪魔するのです。そうした感情に流されないで、あくまでも客観的に問題を捉えることが大切です。また、日頃から広い視野を持つことやものごとに囚われない心を育てることも、問題を素直に見ることを促してくれます。

第三に、問題の一部を見て、それを問題の全てと思い込んでしまうことがあげられます。私は、これを「氷山の一角効果」と呼んでいます。氷山は、海上に出ているのは全体の10%で、大半は海の中にあるのだそうです。問題も同様で、目に見えているのはほんの一部だと思った方が良いでしょう。また、実際の場面では、問題についての情報は限られたものしか手に入らないものです。ですから、限られた情報から問題の全体像に迫ることが求められるのです。そのため、あなたのコミュニケーション力や想像力の助けが必要になります。問題は多面性を持っていますから、見る人によって捉え方が違ってきます。ですから、問題の全体像を理解することがとても大切になるです。問題解決とコミュニケーションや想像力などの考える力については、また改めてお話ししたいと思います。

問題自体をよく見ていくと、いくつかの問題が絡み合っていることがあります。その様な場合には、ひとつひとつの問題を解きほぐすことも必要になります。問題はひとつとは限らないのです。また、問題の原因を探しているうちに、実は問題自体が十分理解でていないことに気がつくこともあります。そんな時は、迷わず問題自体を正しく理解することに立ち返ることをお勧めします。原因の究明はその後で良いのです。

問題の正体を理解しようとする過程には、様々な気づきや発見があるものです。これらの気づきや発見も、私たちに問題を解決するための糸口を教えているのです。

次回は、問題の原因を見つけるヒントについてお話ししたいと思います。

※気づきのヒント   「問題解決の心」 2015/11/24
                                    (2016年2月掲載)

問題解決の心



今回は、私と問題解決との出会いについてお話ししたいと思います。話は、会社に入ってソフトウェアの開発を始めた頃にさかのぼります。もう40年近く前のことですが・・・

もちろん、まだPCが生まれる前で、ソフトウェアのことなど、ほとんど知られていない時代でした。私も、訳も分からないままにそんな世界に飛びこんだのです。

ソフトウェアの開発では、不具合(バグと呼ばれています)の改修がつきものです。当時は、今のように便利な開発ツールがあるわけでもなく、多分に感覚的なバグ探し、バグ潰しでした。感覚を解き澄ませて、ちょっとしたコンピュータの動きや表示されるメッセージなどからバグを見つけていくのです。まずこの辺りがあやしい、とアタリをつけるのですが、先輩は事もなげにやってしまいます。直観が働くのでしょう。そんな先輩の鋭さにはいつも驚かされていました。何時になったら自分も先輩のようになれるのだろう、と途方にくれたものです。

もちろん、誰もバグ探しのコツを教えてはくれません。ところが、不思議なもので、見よう見まねでやっていたことが、だんだんと身に付いてくるものです。先輩は日頃は厳しいのですが、仕事を離れると、お酒を飲みながらいろいろな話をしてくれました。そんなおかげもあったのかもしれません。先輩の話の中に、「厄介なバグは夢の中で見つける」というものがありました。そんなことがあるのかと半信半疑だったのですが、実際に経験することになろうとは、思ってもみませんでした。

システムの保守を担当することになってしばらく経った頃、不具合発生の連絡が入りました。なんとしても解決してやろう、とひとり現地に向かったのですが、この不具合はとても難問でした。不具合を起こそうとしても、なかなか再現できないのです。起きてほしい時にはなかなか起こらないものです。そうこうするうちに、一日が過ぎ、二日が過ぎてしまいました。

ようやく現象は分かったのですが、その原因がなかなか分かりません。不具合の現象から様々な仮説を立てるのですが、どれも当たりませんでした。今度こそ間違いない、と思っても、裏切られてしまうのです。正直、逃げ出したくなりました。そうこうしているうちに、とうとう夢の中でバグ探しを始めていたのです。よっぽど追い込まれていたのでしょう。夢の中で見つけたヒントをたよりに、ようやく不具合の原因にたどり着き、無事バグを修正することができました。今となっては、その原因が何だったのか覚えてはいませんが、たしか、複数の原因が絡んでいたように記憶しています。解決までに、ちょうど一週間が過ぎていました。

今思えば、この一週間、あきらめずに一人でバグと向き合ったことが、その後の私に大きな影響を与えてくれたように思います。その後も、いろいろと困難な場面を経験しましたが、その時の経験があったおかげで、どうにか乗り越えてこられたと思っています。ちょうどその頃、問題解決で有名なワインバーグ先生を知りました。私が実際に経験したことから、ワインバーグ先生の話に共感できるところも多く、ソフトウェア開発と問題発見・問題解決に共通する点に気づくことができました。

私たちのまわりにはいろいろな問題がありますし、予期しない問題も起こるものです。そうは言っても、できれば問題には関わり合いたくないのが人情でしょう。また、感情的な行き違いが、解決を一層難しくしてしまうこともあります。でも、問題から目を背けてしまっては、問題を解決することはできません。まず問題と向き合うことが、解決への第一歩なのです。また、最初に問題を見誤ってしまうと、その解決をこじらせ、もぐら叩きの迷路に迷い込むことになりかねません。問題解決は、最初が肝心なのです。まずは、問題を冷静に受け止め、問題の本当の姿を知ろうとすることです。問題が起きると、つい解決を急いでしまいますが、そんなことも問題を見誤ってしまう一因かもしれません。

どんなに困難に見える問題にも、必ず解決策や解決の糸口があるはずです。また、問題解決に取り組むことで、新しい発見や気づきが生まれ、ピンチをチャンスに変えるヒントに出会うこともあります。そのためにも、問題に向き合い、解決をあきらめない心を育てることが大切だと思うのです。

「私は頭が良いわけではない。ただ人よりも長い時間、問題と向き合うようにしているだけである。」アインシュタイン
                                 (2015年11月掲載)

問題解決事始め



4月になり、信州上田もすっかり春めいてきました。桜もそろそろ咲きそうです。今回は、ワインバーグ先生のお話しの続きで、問題発見・問題解決を取り上げたいと思います。
 

皆さんの職場や身の回りで起きる様々な問題、そうした問題に対して、問題解決者として振る舞うことを求められたとき、皆さんは、問題解決者として有効な解決策を示すことができているでしょうか?容易に解決できる問題なら良いのですが、悩ましい問題の解決を任された時には、空から万能の解決策が降ってくることを祈りたい心境になりますよね。 

ワインバーグ先生は、コンサルタントとして、長年クライアントの問題発見や問題解決に取り組んでこられ、そうした経験をもとに、「ライトついてますか-問題発見の人間学-」や「コンサルタントの秘密-技術アドバイスの人間学-」などの著書を書かれています。原書が書かれてからすでに30年も経っているのですが、本屋さんにならんでいるのを見かけると、ちょっとうれしい気持ちになります。そこには、人が問題に巻き込まれてしまった時に、どんな行動をとるのか、とってしまうのか、また、どう行動することがお勧めなのかが、ユーモアをまじえて描かれています。詳細はこれらの著書をご覧いただくとして、ここでは、特に印象に残っていることや、実際に役に立ったことを紹介してみたいと思います。 

問題解決では、最初に見えたものを問題の全てと思い込んで、すぐに解決を始めてしまいがちです。まして、あなたが問題の当事者であったり、だれかがすごい剣幕で「早くなんとかしろ!」と怒鳴っている場合は特にそうですよね。そのために、そもそも何が問題で、何を解決しようとしているのかを見失ってしまうことにもなりかねません。 

ワインバーグ先生は、問題を見つけた時に、すぐにその解決に飛びつくことを戒めています。特に、いろいろな人が関係している問題では、問題を取り巻く人の立ち位置によって見え方が違ってくるので、まずは問題の全体像を見極めるように、と教えています。ある人にとっては、大問題で、一刻も早く解決してほしい問題も、別の人にとっては、なんの不都合も感じない、あるいは、問題視されること自体が迷惑だ、ということさえあるのです。実際の現場では、問題の全体像を見極めることは簡単なようでなかなかできないものです。それだけに、重い教えであると思います。 

また、ワインバーグ先生は、問題解決者自身の先入観や思い込みが、ものごとをありのままに見ることを邪魔してしまい、そのことが問題の解決を妨げ、はたまた新しい問題を作り出してしまう、と指摘しています。誰でも先入観や思い込みはあるものです。でも、そうした先入観や思い込みが自分の視野を狭めていることに気づいている人は、どれだけいるのでしょうか。

私たちは、何か問題があると、つい見て見ぬふりをしたり、問題のすり替えや悪者さがしに走りがちです。そのために、せっかくの問題解決の機会を失い、不毛な議論を続けることにもなりかねません。問題をありのままに見ること、認めることによって、そもそも何が問題なのか、何を解決すれば良いのかが明らかになれば、もっと建設的でオープンな議論が行われ、有効な解決策を見出すことができるのかもしれません。さらに、問題の正体を明らかすることができて、そのことが関係者に共有されるだけで、問題が自然に解決に向かい始めることもあるのです。 

ワインバーグ先生の著作は、問題の解決を迫られている人にとっては、答えが与えられずに遠回りしているように思われるのかもしれません。たしかに、ワインバーグ先生の言葉は、答えを教えるというよりは、様々な自問自答の方法を教えているようにも思われます。でも、そうした自問自答を繰り返すことによって、問題をより深く理解することを助け、その根本的な解決にたどり着くことを可能にすると思うのです。私は、この自問自答のプロセスこそが、「考える力」、そして「知恵を生み出す力」を鍛えていくものであると思っています。 

現在のビジネスにおいては、様々な問題を解決していくことが求められます。しかも、スピードも求められているため、ややもすると、自分で考えようとしないで、答えだけを求める傾向があるように思われます。そういう時代だからこそ、じっくりと「考える力」を養うことが大切だと思うのです。近道をしようとして、道を見失ってしまっては元も子もありません。万能に見える答えも、皆さんの問題を解決してくれる保証はありません。また、私たちを取り巻く環境や発生する問題は日々変化しており、昨日の解決策が今日の問題発生源になっているかもしれません。 

解決することがとても困難に思える問題が解決できた時の達成感は、何ともいえないものです。まして、問題を取り巻く人々の協力によって解決できた時はなおさらです。問題が解決できたことで、たくさんの人たちが満足し、喜んでくれることでしょう。それと同時に、問題解決に取り組んだ人々は、ものごとを冷静に見る眼や、より深く考える力を手に入れることができるのです。今まで見えていなかった景色が見えてくるに違いありません。あなたも、問題解決の世界にチャレンジしてみませんか。あなたにとって、「きっとお得ですよ。」 

先日、技術評論社のHP(http://gihyo.jp)の中に、ワインバーグ先生のインタビュー記事を見つけました。ワインバーグ先生は、SF小説を書くことにもチャレンジしているそうです。70歳を過ぎてなお、新しい世界にチャレンジされ、学ぶことに貪欲なワインバーグ先生に、さらに尊敬の念を強め、勇気づけられた次第です。 

 

以下の文献を参考にさせていただきました。

「ライトついてますか-問題発見の人間学-」

       ドナルド・G・ゴース、GM・ワインバーグ 著  木村 泉 訳  (共立出版) 1987

「コンサルタントの秘密-技術アドバイスの人間学-」

       GM・ワインバーグ 著  木村 泉 訳  (共立出版) 1990
                                    (2014年4月掲載)