チームの勝利

上田城の「六花紋」

上田城の「六花紋」

 

上田城城門前の「六花紋」。ちょうど「真田幸村」がいて、ポーズをとってくれました。感謝です。現代の幸村さん、サービス精神旺盛です。ちなみに、「六花紋」は上田市のシンボルマークです。

 

最近、うれしいニュースが二つありました。その一つは、F1レースでのホンダの活躍、そしてもうひとつが「はやぶさ2」の成功です。もっとも、「はやぶさ2」には「リュウグウ」からその破片を持ち帰るという大切なミッションが残っていますから、成功と言うのは少し気の早い話かもしれません。

ホンダがF1に復帰したのは4年前の2015年、名門マクラーレンとタッグを組んでの復帰でした。「気づきのヒント」でも、ホンダの活躍を期待して、「へこたれない心」と題してホンダの生みの親、本田宗一郎さんのお話しをさせていただきました。ところが、この4年間はホンダにとって、つらく厳しいものになってしまいました。成績不振によるマクラーレンとの決別、F1からの撤退もささやかれる中でのトロロッソとの再出発。でも、思うような成績はあげられませんでした。

そして今期は強豪レッドブルともタッグを組んでのチャレンジ。第9戦オーストリアGPでは、13年ぶりの優勝をはたし、第11戦ドイツGPでは、レッドブルが優勝、トロロッソも3位に入るダブル表彰台と目覚ましい活躍が続いています。まさに「へこたれない心」を地で行っているホンダです。

こうしたホンダの活躍の陰には、ホンダジェットで培った技術力があると言われています。※ 苦戦が続くなかで、F1の開発メンバーが航空部門の技術者に相談を持ち掛け、ホンダジェットのエンジン技術がF1にも使われているのです。

「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」に2度着地して、その一部を採取することに成功したことは、世界に大きな衝撃を与え、改めて日本の技術力の高さを示しました。今や宇宙はビジネスの対象ですが、同時に、国威高揚のシンボルへと返り咲こうとしています。中国が月の裏側に探査機を着陸させ、トランプ政権も月への有人着陸計画「アルテミス」を発表しています。そんな中で、2億5千万kmも離れた小惑星リュウグウに宇宙の起源を求めて長い旅をし、遠隔制御で超高精度な着地を成功させたことは、宇宙の平和利用を謳う日本らしい宇宙開発のあるべき姿と言えるのかもしれません。

これらの二つのニュースには共通点があります。それは、どちらもチームとして成功を収め、勝利を掴んだということです。どちらのチームにも、これまでの道のりには数えきれない苦難と失敗があったと思います。あきらめかけたり、心が折れそうな苦境が何度も訪れたことでしょう。そうした苦難や失敗をチームの力でひとつひとつ解決し、勝利を掴んだのです。最初から成功を約束されているプロジェクトなど一つもありませんし、プロジェクトには、苦難や失敗がつきものです。あきらめず、へこたれない心が知恵やアイディアを生み出し、苦難を克服して成功への可能性を切り開いていけるのです。はやぶさ2のプロジェクトリーダが記者会見で語っているように、チームワークがあってこそ、チーム全員が自分の持ち場で力を振り絞ってこそ成功を手に入れることができるのです。

チームとして勝利すること、二つのニュースは、そのことを私たちに教えてくれているのではないでしょうか。

 

※ ホンダF1、13年ぶりVに生きる「ジェットの技」 2019/7/1 11:46 日本経済新聞 電子版

リーダーの贈り物

八千穂高原(白樺群生地)

八千穂高原(白樺群生地)

八千穂高原(白駒の池)

八千穂高原(白駒の池)

 

前回まで、「考えること」や「考える力」の伸ばし方について取り上げてきました。日々様々な難題や矛盾と向き合っている職場のリーダーやプロジェクトリーダー(以下リーダーと呼びます)の皆さんにとっては、「考える力」を求められる場面も多いことでしょう。そこで、今回は、リーダーの「考える力」について考えてみたいと思います。 

以前、「気づきのヒント」でもお話ししましたが、トラブルに陥ったITプロジェクトの立て直しに取り組んでいたことがあります。今のように、プロジェクト管理もあまり行われてはいませんでしたので、問題プロジェクトを立て直すためには、まず自分の五感をたよりに、問題を見つけることから始める必要がありました。ところが、そんなプロジェクトに限って、「問題ない症候群」が蔓延しているものです。誰に聞いても、問題はない、心配ない、の一点張り。問題に気が付いていても、誰もその事実を教えてはくれません。そもそも、全くの部外者である私が、このプロジェクトを立て直せるわけがない、と思われていたのかもしれません。 

私の思いは、どんなことがあっても、お客様に迷惑をかけてはいけない、ということでした。このプロジェクトでは、品質の確保はもちろん、納期を守ることが絶対条件でしたので、なおさらでした。納期を守るためには何を行うべきか、何から手をつけてよいか、頭の中は真っ白になっていましたが、必死に考えました。そして、自分は、このプロジェクトのためにできることは何でもやろう、メンバーがかかえている問題を解決するために知恵を出そう、汗をかこうと決めたのです。 

そんな時に、ひとりのメンバーが重い口を開いて、「実は・・・」と話し始めてくれたのです。そのことが、プロジェクトがかかえている問題を見出す糸口になりました。プロジェクトのメンバーも、口には出さなくても「このままでは、このプロジェクトはいったいどうなってしまうのか」という漠然とした不安を抱えていたのでしょう。

 プロジェクトの問題は数えきれないほどありましたが、問題が見えてくれば、あとはひとつひとつ潰していくだけです。問題を潰したことで、隠れていた問題が見つかり、プロジェクトは修羅場の様でしたが、なんとか納期通りに収めることができました。技術的に困難な課題もありましたが、メンバーが最後まであきらめずに持てる力を発揮してくれたことが、プロジェクトの再建につながったのだと思います。納期近くになって、ひょっとしたら間に合うかもしれないと思った時のメンバーの顔つきの変化、空気の変化は、私にとってとても大きく感じられたものです。

 その当時、ITプロジェクトの成功は、プロジェクトの難易度や要員のスキルなどによって決まるものと言われていました。ところが、あるコラムで、「プロジェクトを成功に導くリーダーは、どんなプロジェクトでも成功に導くことができる」という一文を目にしたことがあります。また、そのために、「成功するプロジェクトリーダーは、失敗するリーダーの10倍考えている」というのです。そんな、スーパーマンのようなリーダーが本当にいるのだろうか、とその当時はいぶかしく思ったものです。

 今になって思えば、このコラムは間違っていないと思っています。リーダーの「考える力」がプロジェクトを成功に導くのです。では、成功するリーダーは、何を考えているのでしょうか。状況に応じて、しなやかに考えているのです。「当面、いつまでに何を目指すか」、「このプロジェクトで、足りていないものは何か?」、「チーム内のコミュニケーションはうまくいっているか?」、「メンバーが持っている力や知恵を生かすことを邪魔しているものはないか?」など、プロジェクトの状況に応じて、考えること、自問自答することには限りがないはずです。

 プロジェクトが成功するためには、リーダーの掛け声やスローガンだけでは何の役にも立ちません。メンバーの具体的な働きや知恵が必要なのです。目の前のできごとの裏側にあるものや問題点に気づき、言葉にならない声を聞くことで、メンバーの思いを知り、メンバーの知恵や力を結集することができるのです。そんなプロジェクトでは、メンバーにやらされ感は生まれてきませんし、メンバーはきっとこう言うでしょう。「このプロジェクトは自分達が成し遂げた」と。

 メンバーの皆さんに達成感というプレゼントを贈ることが、リーダーの最高の喜びなのではないでしょうか。そのためにも、リーダーは日頃から「考える力」を養い、地力をつけておくことが大切だと思うのです。