リーダーの贈り物

八千穂高原(白樺群生地)

八千穂高原(白樺群生地)

八千穂高原(白駒の池)

八千穂高原(白駒の池)

 

前回まで、「考えること」や「考える力」の伸ばし方について取り上げてきました。日々様々な難題や矛盾と向き合っている職場のリーダーやプロジェクトリーダー(以下リーダーと呼びます)の皆さんにとっては、「考える力」を求められる場面も多いことでしょう。そこで、今回は、リーダーの「考える力」について考えてみたいと思います。 

以前、「気づきのヒント」でもお話ししましたが、トラブルに陥ったITプロジェクトの立て直しに取り組んでいたことがあります。今のように、プロジェクト管理もあまり行われてはいませんでしたので、問題プロジェクトを立て直すためには、まず自分の五感をたよりに、問題を見つけることから始める必要がありました。ところが、そんなプロジェクトに限って、「問題ない症候群」が蔓延しているものです。誰に聞いても、問題はない、心配ない、の一点張り。問題に気が付いていても、誰もその事実を教えてはくれません。そもそも、全くの部外者である私が、このプロジェクトを立て直せるわけがない、と思われていたのかもしれません。 

私の思いは、どんなことがあっても、お客様に迷惑をかけてはいけない、ということでした。このプロジェクトでは、品質の確保はもちろん、納期を守ることが絶対条件でしたので、なおさらでした。納期を守るためには何を行うべきか、何から手をつけてよいか、頭の中は真っ白になっていましたが、必死に考えました。そして、自分は、このプロジェクトのためにできることは何でもやろう、メンバーがかかえている問題を解決するために知恵を出そう、汗をかこうと決めたのです。 

そんな時に、ひとりのメンバーが重い口を開いて、「実は・・・」と話し始めてくれたのです。そのことが、プロジェクトがかかえている問題を見出す糸口になりました。プロジェクトのメンバーも、口には出さなくても「このままでは、このプロジェクトはいったいどうなってしまうのか」という漠然とした不安を抱えていたのでしょう。

 プロジェクトの問題は数えきれないほどありましたが、問題が見えてくれば、あとはひとつひとつ潰していくだけです。問題を潰したことで、隠れていた問題が見つかり、プロジェクトは修羅場の様でしたが、なんとか納期通りに収めることができました。技術的に困難な課題もありましたが、メンバーが最後まであきらめずに持てる力を発揮してくれたことが、プロジェクトの再建につながったのだと思います。納期近くになって、ひょっとしたら間に合うかもしれないと思った時のメンバーの顔つきの変化、空気の変化は、私にとってとても大きく感じられたものです。

 その当時、ITプロジェクトの成功は、プロジェクトの難易度や要員のスキルなどによって決まるものと言われていました。ところが、あるコラムで、「プロジェクトを成功に導くリーダーは、どんなプロジェクトでも成功に導くことができる」という一文を目にしたことがあります。また、そのために、「成功するプロジェクトリーダーは、失敗するリーダーの10倍考えている」というのです。そんな、スーパーマンのようなリーダーが本当にいるのだろうか、とその当時はいぶかしく思ったものです。

 今になって思えば、このコラムは間違っていないと思っています。リーダーの「考える力」がプロジェクトを成功に導くのです。では、成功するリーダーは、何を考えているのでしょうか。状況に応じて、しなやかに考えているのです。「当面、いつまでに何を目指すか」、「このプロジェクトで、足りていないものは何か?」、「チーム内のコミュニケーションはうまくいっているか?」、「メンバーが持っている力や知恵を生かすことを邪魔しているものはないか?」など、プロジェクトの状況に応じて、考えること、自問自答することには限りがないはずです。

 プロジェクトが成功するためには、リーダーの掛け声やスローガンだけでは何の役にも立ちません。メンバーの具体的な働きや知恵が必要なのです。目の前のできごとの裏側にあるものや問題点に気づき、言葉にならない声を聞くことで、メンバーの思いを知り、メンバーの知恵や力を結集することができるのです。そんなプロジェクトでは、メンバーにやらされ感は生まれてきませんし、メンバーはきっとこう言うでしょう。「このプロジェクトは自分達が成し遂げた」と。

 メンバーの皆さんに達成感というプレゼントを贈ることが、リーダーの最高の喜びなのではないでしょうか。そのためにも、リーダーは日頃から「考える力」を養い、地力をつけておくことが大切だと思うのです。

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です